愚神と愚僕の再生譚
4.学校ウォーズ① テスター・アルベルトです。
◇ ◇ ◇
「テスター・アルベルトです。天城と同様に、襷野高校の専属守護騎士を務めさせていただきます。皆さまの生活を護れるよう責務をまっとうしていきたい所存ですので、どうぞよろしくお願いいたします」
守護騎士の制服に身を包んだテスターが、教壇の上で辞儀をする。
担任の飯島に促されるまま恒例の挨拶をする渡人に、それを淡々と受け入れる生徒たち。
渡人の編入生も3人目ともなると、さすがに目新しさも薄れるのか、クラスの反応は至極落ち着いていた。何人かの女生徒は、テスターの相貌に魅了されたのかささやきあったりもしていたが。
むしろ一番落ち着きがないのは、リュートかもしれなかった。
欠席明けの久々のホームルームもほぼほぼ上の空で、机に頰杖をつき黙考する。
(あーあ。緋剣、どうすっかな……)
昨日はDAG女の家の前で、訓練校の門限ギリギリまで粘ったのだが、結局女は姿を現さなかった。今日の帰りに張ったとしても、わずかな時間では同様の結果に終わる可能性が高い。
「ありがとうアルベルト。もう席に着いていいぞ――さて、次は教育実習生の紹介だ。みんなの先輩にあたる。どうか好意的に迎えてやってくれ」
飯島が廊下に向かって手招きをすると、スーツ姿の若い女性がひとり、教室に入ってきた。
(次の休みになんとか外出許可取って、早朝から地道に見張るか?)
しかし女に会えたとしても、緋剣を返してもらえなければ意味がない。
そうなるとやはり、訓練校事務局に事情を話して、直接交渉してもらうのが一番なのだが……
八方塞がりを実感するかのように、目を閉じる。
(セシルにバレるのが嫌だから、今こうして悩んでんだよなあ……)
「月島未奈美です。2週間にわたってお世話になります。みんなとは5つ上の先輩に当たるかな。担当教科は生物で――」
教育実習生とやらが、はきはきと語りだす。正直なところ全く興味はなかったが、ある程度は聞いていないと後で困ることもあるだろう。
リュートは片目は閉じたまま、視力がほぼ全快した右目で実習生を見て――
「おおおお前っ⁉」
仰天して立ち上がる。
教壇に立っているのは、目下探索中のDAG女だった。
「おまっ、なんで――つか昨日はよくもっ……」
言いたいことが一挙に飛び出し、結果まとまりのない言葉となった。
教育実習生と、彼女に過敏な反応を示すリュート。
それは十分な目新しさとなったのか、生徒たちは興味ありげにリュートと女を見比べた。
昨日は泥棒女の素顔を見ていないセラとテスターも、リュートの反応から事情を察したのか、こちらの様子をうかがっている。
飯島は不干渉を貫こうと素知らぬ顔をしており、当の女――未奈美はこちらをじっと見返すと、
「初めまして。よろしくね騎士さん」
当たり障りのない笑みだけを返してきた。
「そ、そう来るのかよ……」
片眉をつり上げながら、リュートは頰をひくつかせた。
◇ ◇ ◇
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