愚神と愚僕の再生譚
2.不干渉の境界線③ いいのか? 僕、知ってんだぞ。
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◇ ◇ ◇ 「おいしいモノっていったら、絶対これ。あとこれも」  陳列棚から次々と、手元の買い物籠に移されていくお菓子たち。  スーパーマーケットのお菓子売り場で、ばたばたと動き回る勇人の動きを目で追いながら、リュートは口をとがらせた。 「ただの駄菓子じゃねーか。流行はやりの洋菓子とか話題の店とか、そういうのはないのか?」 「なんだよお前、ミーハーなのか?」  へっ、と小馬鹿にしたように勇人が笑い、リュートの買い物籠へさらにお菓子を投入する。 「俺が、じゃない。頼んできたやつらがミーハーなんだ」  リュートは籠の中にある、棒状のスナック菓子をつまみ上げた。  これはこれで確かにおいしいのかもしれないが、同期が求めているお菓子は、この類いの物ではない。 「セラ、やっぱ児童ユウトにお薦めの食いもんを聞くってのは、無理があるんじゃねーのか?」  勇人に聞かれないよう、隣に立つセラに小声で尋ねる。 「別に私だって、本気でこの子を頼ってるわけじゃないわ」  セラも同様に声を潜ませて、続ける。 「おいしいモノ探しを手伝ってあげたという満足感を与えたところで、適当に言いくるめて家まで送ればいいのよ」 「んな簡単にうまくいくか?」 「いくわよ誠意をもって接すれば」 「適当に言いくるめてとか言ってる時点で、誠意のかけも感じないぜ」 「うるさいわね、とにかく家の場所を聞き出すのよ」  小突かれ、仕方なしに身体からだの向きを変えるリュート。菓子の追加に来た勇人の頭に、ぽんと手を置く。 「なあ勇人」 「勇人様! わたりびとはシモベだって、何度言ったら分かるんだ!」  声を張る勇人に、リュートは慌てて辺りを見回した。  わたりびとの自分たちが、地球人の勇人のおりをしている。児童誘拐の疑惑をかけられないか、正直ちょっと不安ではあった。 (……誠意をもって接すれば、ねえ……) 「そうだったな、勇人様だ」  勇人を刺激しないよう、へりくだって質問する。 「それで勇人様。あなたさまのお家はどこですか? とっとと送って差し上げたいんですが」 「まだ帰るには早いだろっ」  頰を膨らませ、頭上に置かれた手を払いのける勇人。  リュートは逆らわずに手をどかし、セラを向いた。 「駄目じゃねーか」 「お兄ちゃんの言い方は、いちいち嫌みったらしいのよ」  セラが駄目出しをしながら、しゃがみ込む。そして勇人と目線を合わせると、彼の目をひたりと見据えた。 「あのね。私たちこの後も、本の受け取りとかいろいろと用事があるの。だからあまり、あなたと一緒にはいられないのよ」 「だったら僕も付いてってやるよ、その本の受け取りとか。ちょうど買いたい漫画もあるし」  勇人は全く揺らがない。 「お前そんなに暇なら、友達とか親に遊んでもらえよ」  子ども特有のかたくなさに閉口し、リュートがぼやくと。 「お前には関係ないだろっ!」  勇人が声を荒らげる。予想外に強い反発に、リュートは立ち上がったセラとふたり、顔を見合わせた。  明らかに機嫌を損ねた様子の勇人は、探るようにこちらを見上げてきた。 「それにいいのか? 僕、知ってんだぞ」 「なにをだ?」 「お前の武器を持ってったやつの家」 「……へ?」 「家が近所なんだ。よく見かける」  取って置きのカードを出したとでもいうように、得意がる勇人。  実際それはその通りで、リュートは勇人の両肩をガシッとつかんで顔を寄せた。 「なんですぐに言わなかったんだよ!」 「ちょっとお兄ちゃん、目立つからっ……」 「あ、ああ悪い……」  セラに注意され、声を抑えて聞き直す。 「なんで黙ってたんだよ」 「だって聞かなかったじゃん」 「そこは空気読んで教えろよ」 「お前が聞かないのが悪いんだろ、無能ムノー」  舌を出す勇人の肩から手を離し、リュートはこめかみをひくつかせた。 「か……っわいげのねえガキ」 「で、どうするんだよ?」  答えを知っていて聞いてくる。  児童相手にむきになっても仕方ない。リュートはしゃがみ込み、なるたけすがって見えるように勇人を見上げた。 「……勇人様、どうか女の家を教えてくださいませ」 「分かってきたじゃん」  勇人は満面の笑みを浮かべた。 ◇ ◇ ◇
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