愚神と愚僕の再生譚
2.不干渉の境界線⑤ 約束だぜ。
◇ ◇ ◇
「やめろよお前ら! ケンジ嫌がってるじゃないか!」
ぽこぽこと、スポンジで出来た剣をケンジに当てる男子5人――全員勇人のクラスメートだ――に向かって、勇人は叫んだ。
クラスメートは勇人が近づいてきたことに気づいていなかったのか、驚いたように勇人の方を振り向いた。
言い返してきたのは予想通り、リーダー格のアキラだ。
「お前には関係ないだろ! ケンジだって好きでやってるんだよ。なあ?」
「う……うん」
聞かれ、ケンジは勇人から目をそらすように、下を向いてうなずいた。
勇人には分かっていた。ケンジは本当は嫌がっている。
それを隠そうとしているケンジにもどかしさを感じつつ、勇人はアキラをきっ、とにらんだ。
アキラは剣をぱしっ、ぱしっと自分の手のひらにたたきつけながら、
「遊びに入れてもらえないからって、邪魔するなよ」
「はぁ? お前らの馬鹿っぽい遊びなんか、こっちからお断りだ!」
「なんだとっ?」
アキラが剣を振りかぶる。それは勇人に向かって振り下ろされ、
「はいそこまで」
はしっとアキラの剣をつかんで登場したのは、勇人のシモベだった。
「子どもの遊びに、あまり口出ししたくはねーんだけど」
シモベは剣から手を離すと、ケンジを目で指し肩をすくめた。
「ケンジだっけか? その子本当は、鬼をやりたくないらしいぜ。別の遊びに変えた方がいいんじゃないのか?」
突然の乱入者にぽかんと口を開けていたアキラたちは、はっとするなり口々にわめき始めた。
「お前には関係ないだろ!」
「ケンジだって、やりたいからやってんだよ!」
「鬼がいなきゃ鬼ごっこができないじゃんか!」
「だったらお前が鬼をやれよな!」
「俺が?」
きょとんと、発言者のアキラを見下ろすシモベ。
アキラ本人も、勢いでつい言ってしまっただけなのか、戸惑うような表情を浮かべていた。
しかしその後名案とばかりに、自分の言葉に大きくうなずく。
「ああそーだ。お前が鬼をやれ!」
「……ふうん。普段鬼を狩ってる俺が、狩られる側の鬼になるのか」
シモベは顎に手を当て、数秒考え込むそぶりを見せると、
「面白いじゃねーか」
にやりと笑みを浮かべ、自分の胸を親指で指した。
「いいぜ、俺が鬼をやってやるよ。全員で遠慮なくかかってこればいい。その代わり俺が無事逃げ切れば、鬼ごっこは禁止……とまでは言わないが、誰かに鬼役を押しつけたり、危ない遊び方はしないようにすること。いいな?」
「勝手に決めるな!」
仕切るのは好きでも仕切られるのは嫌いなアキラが、声を荒らげる。
シモベはからかうように、アキラのおでこに指を突きつけた。
「なんだよ、自信ないのかガキ大将?」
「そんなわけあるか! お前ら! この偉そうなやつ、みんなで倒すぞ!」
顔を真っ赤にして、シモベの指を打ち払うアキラ。アキラの取り巻きたちも、勢いに乗せられて声を上げる。
「約束だぜ。俺が勝ったら」
「しつこいぞ! オトコにニゴンはない!」
「へえ、言うじゃん」
ざっと砂を蹴り上げ、シモベが拳を手のひらに打ちつけた。
「んじゃあ早速、鬼ごっこの始まりだな」
◇ ◇ ◇
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