愚神と愚僕の再生譚
【番外短編】私のリュート様① お守りも兼ねて君に頼みたいのだよ。
◇ ◇ ◇
ずっと見ていた。自分を護ってくれたあの人を。
いつかもっと近づきたい。そう願いながら生きてきた。
◇ ◇ ◇
それは突然の命令だった。
「地球人の高校に入学? 私がですか?」
目の前にいる人物への嫌悪感はひた隠しに、セラは聞き返した。
無駄に広い学長室はワインレッドの分厚いカーテン――常々思うが『いかにも』で趣味が悪過ぎる――に閉ざされ、せっかくの春陽もシャットアウトされている。
しかしこの部屋の主は自然光に興味などないらしく、人工光の平坦な明るさの下、自身も平坦な表情を顔に張りつかせて、学長の椅子に背を預けていた。
「君だけではない。堕神の異常幻出への対処として、ひとりの訓練生を守護騎士として入学させる。君にはそのアシスタントを務めてほしい。プラス地球人と交流を深めつつ、しかし学業においては容赦なくトップクラスの成績をたたき出してほしい。登校は明後日からだ」
学長――セシルはわずか十数秒の間に、重要と思われる事項を一挙に詰め込んできた。
白状すると、突拍子のない情報をのみ込むために、もう少し時間が欲しいところではあった。
が、細部は後で指令書でも読めばいい。大事なのはこんな時、『セルウィリア』ではなく『セラ』ならどう反応するだろうか、ということだ。
「了解しました、お任せください! 必ずや女神様のお役に立ってみせますっ!」
瞳に使命感の光をともし、セラは意気込み最敬礼した。
「さすが良い返事だ。大いに期待している」
「それで学長、私が付かせていただく訓練生というのは?」
「君と同期の、リュートという少年だ」
まさか万が一にも常識的に有り得ないと思うが、いざという時ボロが出ないよう可能性としては考えておこう……としていた部分をピンポイントで突かれて、セラは心の内で悲鳴――いや奇声か?――を上げた。
しかし表向きは、眉どころかまつげ1本すら動かさない名演を決める。細胞レベルでコントロールできたのではと思うほどの、完璧な自制だ。
「お名前は耳にしたことがあります。確かしばしば、学長に先鋭的な意見を提示されてる方ですよね?」
リュートくらい言動の目立つ訓練生を全く存ぜぬというのは、かえって不自然さが際立つ。セラはあくまで他人としての好奇心から生まれた体で、質問を発した。
「そうだ。神気の強さには目を見張るものがあるのだが、格式と伝統を理解していない子どもでね。お守りも兼ねて君に頼みたいのだよ」
「なるほど……」
合点がいったという表情をつくる裏で、セラの頭は必死に答えを探していた。セシルがあえて、セラをリュートにぶつける理由を。
記憶が戻っていることを疑われ、揺さぶりをかけられているのか。
ただの教育の一環なのか。
それとも言葉通り『優等生のセラ』にお守りを頼みたいのか。
はたまた他の理由があるのか……
(駄目だわ、お手上げ)
セラは心で嘆息した。この男の本心は計り知れない。
だから、
「ご安心ください! 堕神への対応はもちろん、件の訓練生についてもきちんとサポートいたします!」
再び最敬礼し、精いっぱい、全力で『セラ』を貫いた。
◇ ◇ ◇
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