愚神と愚僕の再生譚
1.極めて健全かつ堅実身近な資金調達方法すなわち学内バイト④ すごい……じゃないですかそれ!
◇ ◇ ◇
「さてと。ここからが本格的な協力事項だ。君にはこれを装着してほしい」
採血を終えると、フリストは金属製の器具を取り出し、ローテーブルの上に並べ置いた。
見たままの印象でいえば、ヘッドギアに腕輪がふたつ、といったところか。こまごまとした付属物が多いため、やたらとげとげしいシルエットだ。
「頭と手首に着けてくれ」
「はい……結構重いですね」
言われた通り器具を装着していきながら、率直な感想を漏らす。
テーブルの端でカートリッジの作製に取りかかっていたフリストは、リュートが全ての器具を着け終えると、手元のリモコンらしき物を操作した。
「ちょっとビリッとするよ」
フリストが言い終わりもしないうちに、器具との接着面から、強い電気のようなものが流れ込んでくる。
「っ……なんですかこれ。マッサージ器具?」
顔をしかめてリュートは聞いた。耐えかねるほどの強さではないが、まるで静電気の嵐だ。ビリビリときて落ち着かない。
フリストは採血管を振るいながら、
「周囲の空間からこの世界の因子を抽出して、君の身体に流し込んでいる」
「???」
答えを聞いても、全く意味が分からない。
リュートの様子を察して、フリストが説明を補足してくる。
「存在感の質量に干渉し、疑似質量を形成させるんだ。つまり存在原理が、一時的に地球人と同じになる。こちらの世界に顕現していない堕神と一線を画することで、神僕も堕神を透過させられるようになるんだ。カートリッジの血は元のままだから、負傷の心配なく堕神を狩れる」
「すごい……じゃないですかそれ!」
ようやく理解し、その意義に打ち震える。リュートは拳を握って身を乗り出した。
「実用化できたら、俺たちの仕事がどれだけ楽になるか……ギジケンって貢献度高いことしてるんですね! なんかいろいろと誤解してましたすみません!」
「心底感嘆してくれてるようでうれしいけど、その分どれだけ見下されてたのかが気になるところだねえ」
フリストは苦笑すると、安心したように吐息をついた。
「でもまあ、異常なく作動してるみたいでよかった。君のことは気に入ったから、なにかあってほしくない」
「……なにかって?」
言外に不穏なものを感じ、拳をそっと開く。
「超微粒子を含んだ微弱電流が、生体電流に悪影響を及ぼさないかが気になっていたんだ。君のおかげで問題ないことが分かった」
「問題あったらどうなってたんですか?」
「大丈夫だよ」
フリストは大仰にうなずいた。
「立派な鎮魂碑を造る業者を知っているから」
「死んでんじゃん」
「ところで、なにか身体に変化はないかい?」
さらっと話題を変えて、フリスト。
身を乗り出したままであったリュートは――多少納得いかない部分を抱えつつ――身体を引き戻しながら、違和感に気づいた。
「そういえば、どことなく身体が重い、よう、な……」
ついには自重を支えきれなくなり、どすんと尻もちをつく。
「な、なんだっ……?」
目を白黒させているリュートを面白がるように見て、フリストは片目をつぶった。
「どうやら無事に、疑似質量が形成されたようだね」
つまりは一時的に、地球人と同等の存在感を得たということらしい。
「なるほど……でもこれ、なかなかきついですね……」
突然倍加した体重に、身体が付いていかない。座り直すだけでも一苦労だ。
「すぐに慣れるさ。それに堕神の攻撃が当たらないなら、多少動きが鈍くても問題ないだろう?」
カートリッジに封をするフリストに向け、リュートはそれとなく疑問を呈した。
「その件なんですけど、本当に堕神を透過できるんですか?」
「それは試してみないと分からないね。だからもし幻出が起きたら――」
ぴくり、と言葉を途切れさせ、こちらに視線を送るフリスト。
もちろんリュートも感じ取っていた。次元のゆがみを。
フリストは、笑みをたたえて続けた。
「幻出が起きたら、実際に堕神を排除してみてほしい」
「マジですか?」
「マジだねえ」
言いながら、すでにフリストはスマートフォンを取り出し、対処の報を打っていた。
(まあ、自分から助手に志願したわけだしな)
拒否できる立場ではない。
フリストは、すくっと立ち上がり、
「じゃあまずはその身体で、どれだけ迅速に現場到着できるか、やってみようか」
緋剣とカートリッジを投げてよこす。
リュートはそれらを危なげに受け取り、
「そーです、ね」
よろめきながら腰を上げた。
◇ ◇ ◇
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