愚神と愚僕の再生譚
2.至極まっとうで謙虚確実な報酬の取得手段すなわち有償奉仕⑥ おやおやおや?
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◇ ◇ ◇  アスレチックのそばまで行くと、すでにひとり先客がいた。言葉よりも先に、強力な香りがこちらへと届く。 「おやくず君じゃないか」 「リュートです」  よりにもよってという思いで返答する。立っていたのはフリストだった。 「どうしたんですか、こんな所で」  フリストの足元にある段ボール箱を見て、リュートは大方の予想をつけながらも尋ねた。  フリストが大仰にうなずく。 「答える義理はないが、教えてあげよう。知っての通り君の非道な行いによって、僕は実験の協力者を失ってしまった」  もはや面と向かって反論する気にもなれないが、 「リュート様、一体なにをやらかしたんですか?」 「俺はなにもしてない」  明美やタカヤへの主張も兼ねて、背後から聞いてくるセラに身の潔白だけは訴えておく。 「そこで僕は仕方なく、新たな助手を探しにここへとやって来たわけだけど」  フリストは腕を組み、困ったようにアスレチックへと目をやった。  リュートもまた無人のアスレチックを視界に収め、礼儀として共に惜しんだ。 「運がなかったですね。いつもは誰かしらいるのに」 「いや、いたんだよ」 「え?」 「何人かの訓練生はいた。しかし僕が協力を求めたら、なぜかみんな去ってしまったんだ」 「ちゃんと自己紹介はしました?」 「もちろん。疑似質量応用科学研究会の理念と熱意、それとついでにざんこん研究会の不毛な考察についても論じ、ギジケンの崇高さを熱く語ったよ」 「だからですよ」  一応伝えるが、案の定フリストは聞く耳をもたない。ひとり先行して悩み始めている。 「かくなる上は君を……いや、しかしいくら人手に困っているからといって、裏切り者に頼むのはどうも……んむむ、究極の選択だ」 「じゃあ俺がその不愉快極まりない選択を手伝ってあげますけど、俺は特別見学者の案内もろもろやることがあるんで、残念ながら助手はできません」 「――ああ、君が特別見学者か」  明美に目をやり、ぽんと拳を手のひらに当てるフリスト。私服とプレートですぐ分かりそうなものだが、見えてても認知していなかったというところだろう。  地球人の訪問は秘匿事項の関係もあり、あらかじめの周知が徹底されている。だからみな言動に気を配りはするのだが、地球人当人への興味は薄いというのが大半の反応だ。一部冷やかしに来る迷惑訓練生もいたりするが。  そう考えると、フリストの希薄な興味も普通といえた。  タカヤの時と同様、知らない者同士で紹介し合うと、 「おやおやおや?」  フリストが期待を込めたまなざしで、タカヤの制服をまじまじと見る。 「君はもしかしなくても、G専科生じゃないか?」 「はい、そうです」 「これぞ神のお導きだ! ぜひとも、ぜひとも実験に協力してほしい! わたりびとの未来のために!」  がっしと手をつかまれたタカヤは、身を退きながらも愛想笑いを浮かべた。 「そ、そうですね……詳細を聞かないとなんとも言えませんが、わたりびとの未来に貢献できることなら、前向きに検討します」 「素晴らしい!」  バッと両手を広げ、空を仰ぐフリスト。 「なんて忠直な精神! 聞いたかね不義じゃこうくず人君! 不徳な君とは雲泥の差だとは思わないか⁉」 「その流れで俺にうなずけと?」  当然のように同意を求められて、リュートは冷めたまなざしを返した。  ため息をつき、続ける。 「なんでもいいですが、タカヤとの用事は、俺が先に片づけさせてもらいますから」 「でも天城君」  部外者という意識が強いのだろう。ずっと黙っていた明美が、片手を挙げておずおずと切り出した。 「勝負って危なくないの? 大丈夫? 腕もげない?」 「もげ……いやもげないっつーか、なんか須藤のわたりびとの認識ゆがんでないか?」 「そうなのかな。やまもと君がわたりびとのこと詳しくて、いろいろ教えてくれるんだけど」 「あの守護騎士ガーディアンオタク……」  うめく。いや、過度なのめり込みはどうでもいい。不正確な事実を広めていることが問題だった。  そんなリュートを見て、明美はほっとしたように胸に手を当てた。 「なあんだ、別に斬り合ったりするわけじゃないんだね。私てっきり、訓練校ってなにかにつけて斬ったり殴ったり蹴ったりしてる所なのかと思ってた」 「そんな常にぶち切れてるみたいな集団嫌だろ。確かに今日は踏まれたり引っ張られたりたたきつけられたり首絞められたりしたけ――」  言葉が途切れる。 (……あれ?)  よくよく考えてみると、明美の発言との矛盾点が見当たらない。 「リュート様、それじゃあ余計誤解されますよ」  あきれた目を向けてくるセラ。  リュートはひとつせきばらいした。  「とにかく! 無意味に物騒なことなんてしない。白黒つけるだけなら、競技種目で十分だ。だろ?」  最後はタカヤに向けて。  彼がうなずくのを確認後、近くにあるボール籠からラグビーボールをひとつ取り出す。 「やるのはキャリーボールだ」
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