愚神と愚僕の再生譚
5.自民族中心主義⑪ 今危ないのは天城君でしょ!
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 事実以上に明美がそれを自覚していたことに衝撃を受け、つんのめって転倒しかける。  彼女は自らの発言の重要性を認識していないのか、危なげに窓を乗り越え、クロスボウを持ったままリュートの方へと走ってくる。つまりはリュートの後を追う、しんの元へと近づいてくる。 「その話が本当なら、なおさら向こう行けって! 危ないって分かるだろ⁉」 「今危ないのは天城君でしょ!」  どうやら説得は無理のようだ。このままでは明美をしんに近づかせてしまう。 (あーもう、なんなんだよあいつは!)  リュートはかかとを地面に打ちつけ、それを軸に回って逆走に転じた。  接近するしんに、紙一重を探る心地でこちらからも身を寄せる。  殴りかかられる寸前で急激な前傾姿勢を取り、身体からだを前へと投げ出すリュート。そしてより速く遠くへ転がれるよう、身体からだを丸める。縛られた身体からだで許す範囲でだが。 「いてっ! いてえぞこの野郎!」  地面を転がりながらごまかすように叫び、再度口に入った砂を吐き出す。立ち上がるよりも先に明美がこちらへとたどり着き、クロスボウを置いて縄をほどきにかかった。 「ちょっと……我慢して、ね」  一見して簡単にはけないと分かったのだろう。明美が謝りながら、けんつかを握り込み、強引に引っ張り回す。  けんが動くたびに縄が締め上げられ息が詰まるが、確かにそれが一番手っ取り早いかもしれない。けんを剣帯から引き抜きさえすれば、その分だけ縄が緩む。 「……っ」  剣帯から引き抜けはしなかったものの、絡んでいた縄の一部が、つかから外れた。 「! よし緩んだサンキュ助かった! あとは自分でなんとかするどけ!」 「待って、もう少し……」 「いや鬼来るから! どけってマジで!」  しんの接近に声が裏返る。  すると明美はとんでもない行動に出た。 「これ、鬼退治用だよね!」  あろうことかクロスボウを拾い、しんに向かって構えたのだ。 「馬鹿! それは駄目だ!」  ピストルクロスボウを模したその武器は、明美の言う通り対しん用だ。見たところすでに矢もカートリッジもそうてん済みのようで、試してほしいというのが本当であれば、カートリッジの血は恐らくリュートのもの。  だがクロスボウは、実証実験段階の色モノ武器だ。教科書で読んだ程度で、リュートは実物を目にしたのすら初めてだった。  明美が安全装置のレバーを解除する。誤って解除してしまわないようセラが教えたのだろうが、結局その配慮は、意図とは逆の方向に役立ってしまった。 「撃つだけなら私だって!」  ただのクロスボウとして撃っても透過するだけということを混乱で忘れているのか、リュートの意思干渉に期待しているのか。いずれにしろ、狙いを定めて息巻く明美。 (められない!)  焦燥を募らせながら肘を張る。縄はだいぶほどけていたが、あと少しが緩まない。 「い……けっ!」  明美がクロスボウを射る。矢が飛び出し、矢尻がカートリッジを突き破る。 (あれが俺の血なら……!)
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