愚神と愚僕の再生譚
2.地球人と疑惑と渡人⑪ 俺は守護騎士であって、風紀委員じゃないんだけど。
「んで」
男子生徒の腕をぱっと離しながら、明美に――図書館に用事があったはずの明美に、冷ややかな視線を注ぐ。
「俺は守護騎士であって、風紀委員じゃないんだけど」
「ごめんなさい」
明美自身、筋違いなことを頼んだ自覚はあるのだろう。身を小さくして謝ってくる。
「まあ、なんとかしたかったって気持ちはくんでおく。で、君は……」
リュートは男子生徒へと目を移した。
男子生徒はベストをまくり上げながらシャツをはたいて、靴跡を消そうと奮闘している。
「……その、大丈夫か?」
こういった場合のやり取りには慣れていないので、リュートは手探りするように声をかけた。
すると男子生徒が目をむき、声をかけられているのが信じられないとばかりに、慌ててうなずいてきた。
その大袈裟な反応に多少疑問を感じつつも、リュートは彼に財布を手渡して、
「須藤に礼言っとけよ、君を助けようと動いたのは彼女なんだから」
しかし、
「今更……なんだよ」
「?」
男子生徒が明美に向けたのは、感謝ではなく軽蔑のまなざしだった。
「でもまあ、そうだね――あまりにも遅過ぎる手助け、ありがとう」
「…………ごめん、私、先に教室行くね」
顔をゆがめて、明美は小走りに去っていった。
「……いいのか? 泣きそうだったけど」
一応聞いておく。
男子生徒は気まずそうに財布をしまいながらも、後悔した様子は見せなかった。
「いいんです……それより」
ぱっと顔を上げ、リュートの制服をぺたぺた触りだす男子生徒。
「ちょっ、なんだよ?」
思わず後退するが、その分だけ男子生徒も詰めてきた。
「まさかこんな間近で見られるとは思わなかったな――へえ、これが守護騎士の制服かあ」
「おい、あんま触んな」
「僕昔から、守護騎士に憧れてたんです! だってかっこいいじゃないですか。あ、タメ口でもいいですか? クラスメート特権ってことで」
「聞けって」
「すごいなぁ。これが緋剣かぁ」
「だからおいっ、勝手に触るな!」
緋剣に伸ばした手をはたかれ、男子生徒はいったんは手を引っ込める。
しかし、
「でも今はただの棒だし、安全なんでしょ?」
めげずに伸ばされる手から緋剣をかばうようにして、リュートは後ずさった。
「関係ない。触るな、とにかく触んな。距離感ってもん考えろ」
「まあまあそんなこと言わないで。僕は心から守護騎士を支持してるんだよ? せっかくクラスメートになれたのに、なかなか話しかけるきっかけがなくて――あ、自己紹介がまだだったね。僕は山本銀貨。よろしく龍登君」
「ああよろしく、でもそれはそれとして俺べたべたくっつかれんの好きじゃないから特に男には」
逃げるように銀貨の手を振り払い、リュートはすぐそばの視聴覚室へと目をやった。
「俺ちょっと用事あるから。先に教室戻ってろ」
銀貨をしっしと追い払う。先ほどの現場からの今で、我ながらひどい対応かなとも思ったが、よく分からないミーハーテンションであまりにぐいぐい来るものだから、正直こっちが怖じ気づいていた。
名残惜しそうに去っていく銀貨の姿が、階段に消えたのを確認後。
リュートは視聴覚室まで行き、後方の扉をがらりと開けた。
「セラいるか? 遅れて悪い。一体なんの用件だ?」
入室して扉を閉めたところで――いきなり腕を引っ張られ、身体ごと壁に押しつけられる。
「っ⁉」
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