愚神と愚僕の再生譚
5.自民族中心主義④ これもまた、地球人に対する誓約のひとつだ。
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◇ ◇ ◇ 「動くな!」  リュートと目が合ったのを合図とするかのように、男が鋭く警告の声を発した。  男はマスクを着けているため判然としないが、声の感じからすると、そう若くもないだろう。強盗らしく(?)黒ずくめの格好で、この暖かい時期にニット帽までかぶっている。  刃渡り20センチ程のナイフを若い女性店員に突きつけ、こちらに送るのはいら立ちのまなざし。どうやら手早く強盗を終えようとしたところに、偶然立ち入ってしまったらしい。  リュートは舌打ちし、銀貨の襟首を締め上げた。 「お前のせいだからな」 「あの、でもわざとじゃ」 「お前の! せい! だからな!」 「ごめんなさい」 「動くなと言ってるだろ!」  再度の警告。リュートは銀貨から手を離し、男へと向き直った。 「りゅう君」 「分かってる」  耳打ちをしてくる銀貨に、短く応じる。  守護騎士ガーディアンは軍人でも警察官でもないが、犯罪現場に居合わせたときは対処義務が生じる。これもまた、地球人に対する誓約のひとつだ。  厄介なのは犯罪者も地球人であるため、かつな武力行使ができないということ。 「ったく、今日はテストだってのに」  やり場のない不満をぶつけるかのように自分の頭を小突き、かばんを銀貨に押しつける。 「余計な力はもつなでも犯罪には対処しろしかし乱暴過ぎるなとか、本当わがままだよな地球人おまえらって」  胸ポケットへと右手を伸ばす。 「おい! 武器にはれるな!」  焦った声を上げ、ナイフを持つ手を震わせる男。  リュートはいた左手のひらを見せて男を制すと、 「別に武器じゃないですよ」  ポケットからスマートフォンを取り出し、ショートカットボタンでムービー撮影モードに切り替える。そのままそれを、男とリュートから(ちゃっかり)距離を取っていた銀貨へと、無造作に投げつけた。  銀貨はそれを危なげにキャッチし、 「え、なに?」  ぽかんと、こちらに答えを求める。  男に視線を集中させながら、リュートは答えた。 「ムービーで一部始終撮っとけ」 「動画サイトに上げるの?」 「ちげーよ! 構ってちゃんか俺はっ!」  思わず身体からだごと銀貨に向かって叫び、慌てて男へと向き直る。 「証拠だよ、過剰防衛でないことの。防犯カメラじゃり逃しがあるかもしれねーからな」  男の方はというと、武器には警戒していたのに、カメラに関しては無頓着のようだった。すでに防犯カメラにられているからなのか、捕まることに関してはもうどうでもいいのか。  やや血走った目からすると、後者なのかもしれない。早朝とはいえ、もっとひとのない時間帯を選ばなかったのも変だ。  リュートは一応、第一段階から攻めてみることにした。マニュアルの記述を思い出しながら、両手を上げて口をひらく。 「あー……あの、落ち着いてください。なにかあったんですか? 悩みがあるなら、しかるべき相談センターを紹介いたしますが」 「就職競争もなく、狩りのごとでのうのうと暮らしてるお前らには、話したって分かるものか! 無駄飯食いは引っ込んでろ!」 「仕事に困らないという点は否定しませんが、のうのうと暮らしているわけでもないですよ。経費を賄うため、農作物や研究技術の一部を売ったりもしていますが、必要以上の利益は寄付などに充てていますし。そこまで批判されるのは我々としても少々不本意――」 「うるさいと言ってるだろうがっ! 本当に刺すぞ!」 「きゃあぁっ!」  男にカウンター前へと引きずり出され、店員の手からお金がこぼれ落ちる。今にもが喉元に食い込みそうで、店員は涙目だ。  銀貨がスマートフォンを構えながら、ぽそっとつぶやく。 「りゅう君って、なだめるの下手だね……」 「一応手順は踏んだんだからいいだろ。第二段階でなんとかする」  断言したものの、リュートは攻めあぐねていた。店員を盾にされては手が出せない。
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