愚神と愚僕の再生譚
1.垣間見える幻妖⑪ なんか心が疲れてるようだけど
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「そういえばりゅう君、今日はどうしたんだい? 変だったよ。まるでなにかにかれてるみたいで」  思い出したように言う銀貨に、リュートはがたりと反応した。いちるの望みにすがるように立ち上がり、 「もしかしてお前、幽霊とか詳しかったりするのか?」 「いや、そんなことは……って、え? じゃあまさか、今日のは全部幽霊が――って言いたいの?」 「お前今すっげー見下しただろ」  半目でにらむと、銀貨は慌てて首を横に振った。 「そんなことないよ。君たち異世界人がいたなら、幽霊が実在してたっておかしくないし……」  ごまかすように一息に言ってから、銀貨はゆっくりとまばたきした。 「えーっと……つまりりゅう君は今、幽霊にかれているの?」 「そう、だな……たぶん」  面と向かって聞かれると自信がなくなり、リュートは控えめに肯定した。  たん、ぱあっと顔を明るくする銀貨。 「そうなんだっ、すごいや。ねえねえりゅう君。かれてるってどんな感じなんだい?」 「そのえぐり込んでくるような好奇心、抑えないと友達なくすぞ」 「確か左腕がどうとか言ってたよね」  リュートの忠告をすんなり無視して、銀貨が左腕にれてくる。 「だからな山本。世の中には遠慮ってもんが――」  つかまれた左腕を離そうとした時、またもやその主導権が消え去った。  左腕が銀貨の手を振り払い、その肩口へと振り下ろされる。 「――っ⁉ やば、よけろやまも――」  リュートは叫び声を出し損ねて、口を半端に開け放した。  てっきり銀貨を傷つけるのかと思われた左腕は、予想外の動きを見せた。  攻撃的な拳ではなく友愛の手のひらで、ぽんぽんと、銀貨の肩を優しくたたいたのだ。 「りゅう君……なんで?」 「いや……俺にもさっぱり」  互いに答えを見つけられず、左腕を見つめていると。 「あーまーぎー君っ!」  バンッと司書室の扉を押し開け、悦子が入り込んできた。 「あなた、大道具壊したでしょ⁉」  『図書室では静かに』という張り紙の前でがなる悦子に、リュートは左腕を引き寄せて答えた。 「俺じゃない。ざんこ――例の悪戯いたずらする鬼の仕業だって」 「この際どっちでもいいよ、大事なのは大道具が壊れたってこと! 早く直して!」  リュートは助けを乞うようにセラとテスターを見たが、涼しげな顔で無視された。 (覚えてろよ……)  内心でのろって、再び悦子へと向きやる。左腕のコントロールは戻っていたが、不安なので右手で押さえながら。 「いや俺もう、大道具係じゃないし」 「作った人が直した方が早いでしょ? 月曜には使いたいの!」 「でも俺、今日はちょっと調子が良くな――」  ガシッと腕をつかまれる。 「なんか心が疲れてるようだけど、だったらなおさら身体からだを動かして、心の健康取り戻さないと! そしたらきっと破廉恥な欲情も消え去るよ!」 「すこやか! 俺めっちゃすこやかだからお願いだから誤解しないで!」  取りあえずそれだけは伝えたくて、リュートは必死に訴えながら引きずられていった。 ◇ ◇ ◇
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