愚神と愚僕の再生譚
2.至極まっとうで謙虚確実な報酬の取得手段すなわち有償奉仕⑦ 骨の髄まで優等生なのか?
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「キャリーボール?」  きょとんとこちらを見てくる明美に、リュートはラグビーボールをひょいと投げた。 「数人単位のチームで、これをパスしながらゴールまで運ぶ。そのタイムを競うんだ」 「速く移動できる人が、ずっと持ってれば有利ってこと?」  危なげにキャッチした明美が呈した疑問には、セラが答えた。明美の手からボールをするりと取りながら、 「ボールを保持できる時間は一度に3秒だけです。常にパスをしながらゴールを目指すことになりますね。座標指示が素早く出せれば効率よく回るから、座標認知の訓練にもなるんですよ」 「本当はここにいる訓練生にチームメートを頼むつもりだったんだけど、いないから……俺にはセラ。タカヤには――」  リュートは言葉を切り、フリストを見やった。 「あくまで先輩さえよければですが――フリスト先輩が付くっていうのはどうですか?」 「面白そうだねえ。いいよ、僕も協力する」 「先輩方がそれでいいのであれば、俺は全然構わないですよ」 「いいですけど……リュート様、負けたからって私のせいにしちゃ嫌ですからね」  話はすんなりまとまった――かと思いきや。 「話がまとまったところでタカヤ君、僕に提案がある!」  フリストがウキウキとした様子で、足元の段ボール箱からなにかを取り出した。  それはヘッドギアのような装置で、午前にリュートが装着させられた物と酷似していた。 「僕のこの研究品、なんと副作用で体重が軽くなるんだ! ぜひタカヤ君に着けてもらいたい。そしてふたりで、あのくず君を徹底的に打ち負かしてやろう!」 「どんだけ根にもってんですか先輩」  ねちっこい狂気にへきえきしながらも、リュートはいぶかった。  フリストの手にあるヘッドギアは、てっきり自分が試した疑似質量形成装置の改良版かと思っていたのだが。 (それだと体重は重くなる……ってことは別物か?) 「うーん……」  タカヤがうなる。朴直な顔を悩ましげにしかめて、 「その研究品がなんなのかはよく分からないですが……俺だけ使うってのは、明確な不正じゃないですか?」 「構わないよ」 「構えよ」  指摘は無論無視された。  しかしタカヤの方は幸いまともで、「残念ですが」と首を横に振った。 「でもこれなら、僕の用事も同時に済ませられるし……」  諦めきれないフリストが、なにか打開策はないかと思案するように目を細め――ぴんと頭上に豆電球をともした。 「そうだ、そうだよくず君!」 「いやちょっとこっち見ないでくださいよ」 「くず君も着ければいいじゃないか、僕の研究品を! 幸い試作品は複数用意してある。それでフィフティフィフティだ」 「俺に頼むのは究極の選択じゃなかったんですか?」 「背に腹はかえられない。苦渋の決断というのは、人生の要所要所に存在する。そうだろう?」 「なんで俺の価値がそこまで地にちなきゃいけないのか、小一時間問い詰めたいところではありますね」  時間がないのでやりはしないが。 「さあどうする?」  ヘッドギアを掲げ、自信満々に言ってのけるフリスト。  その意味不明な自信を、全力拒否でたたきつぶしてやりたいところだが、だったらプレイチームから抜けると言われても厄介だ。 「いいですよ。ただ先輩の能力を疑うわけではないですが、実験には失敗が付き物ですからね。装置をつけるのは俺とタカヤだけにしたいです。もちろんタカヤ自身も、装着に依存はないという前提で」  ちらりとタカヤを見て、暗に「危険だからやめとけ」と伝える。が、 「俺は問題ないですよ。学長が承認した研究会の研究品なら、わたりびと全体の利益につながりますからね」  さらりとタカヤは承諾する。 (こいつもしかして、骨の髄まで優等生なのか?)  セラのうわべだけのけいけんさや、テスターの達観したかのような義務感。そういったものとは違う、心の底からの忠義や使命感をタカヤから感じ取り、リュートは畏怖にも似たものを覚えた。
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