愚神と愚僕の再生譚
2.地球人と疑惑と渡人⑩ 守護騎士様がなんの用?
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 まず目に入ったのは、気の弱そうな男子生徒。取り立てて背が低いわけでもないのに、おどおどした態度が、そう錯覚させる雰囲気を醸し出している。  そして彼の腕を拘束する女子生徒ふたり。うちひとりの手には男ものと思われる、黒い財布が握られている。  男子生徒はクラスで見た顔だが、女子生徒たちは見覚えがない。ただひとり、図書館棟の壁を背に高圧的にたたずむ少女を除いて。  リュートの登場に、立場の区別なくみなが一瞬動きをめ―― 「は?」  不機嫌そうな声を上げたのは、壁を背に立っていた少女――角崎りんだった。紙パックジュースのストローを口に加えたまま、こちらをねめつけてくる。 「守護騎士ガーディアン様がなんの用?」 「別に。通りかかっただけ」  正確には、通りということになるが。  ともあれリュートは、男子生徒へと視線を移した。  たった今付けられたと思われる靴跡が複数、真っ白な制服にあしらわれている。スクールベストがめくれ上がっているのは、後で靴跡の付いたシャツを隠すためか。乱れたシャツの裾からのぞく腹には、あおあざのようなものが確認できた。 「……で。君は、見た目通りのいじめっ子か?」 「異界の野蛮人が、地球人の話に口を突っ込まないでくれる?」  いらついた口調で吐き捨て、紙パックを投げつけてくるりん。  半身引いてよけるも、パックの口から飛び散った液体が多少制服にかかった。けんの血などで汚れるのが前提のような制服だが、不愉快なことに変わりはない。 「……なんのつもりだ?」 「別に。これで怒ったあんたが私たちに手を出せば、地球人を襲った罪で処罰されないかなって思って」 「なるほど」  忍耐なら、セシルとのやり取りでだいぶ鍛えた。  リュートは何度も小さくうなずくと、男子生徒の元まで行き、彼の腕を取った。 「行くぞ」  が、女子生徒ふたりは拘束の手を緩めない。 「お前らな――」 「なに、怒った? 殴るの? 守護騎士ガーディアン様が、か弱い女の子襲おうっての? 怖ーい」  背後から聞こえてくる嘲笑。  リュートは男子生徒から手を離して身を翻すと、回し蹴りの要領で靴底を壁に打ちつけた。りんの二の腕すれすれで止まった足を引き寄せ、身をすくませている彼女にすごむ。 「か弱い女の子が、人ひとりこんなに痛めつけるかよ」  あとは数秒間の沈黙。  りんが口をひらく前にリュートは反転し、再び男子生徒の腕を取った。女子生徒の手を強引に振りほどき、ついでに財布も取り上げる。 「行くぞ」 「あ、はい……」  よろよろと、リュートにすがりつくような形で付いてくる男子生徒。距離を置いて様子をうかがっていたらしい明美もまた、身を縮こませてこそこそと追ってくる。  それを肩越しに確認したついでに、リュートは念押しでにらみを利かせた。 「次見つけたら、報告させてもらうからな」  どこに、とは言わなかった。というより、報告の是非も含めてどこへ報告するのが最適か、リュート自身分からないので言えなかった。  しかし多少は効いたようで、りんたちが身じろぎするのが、顔を戻す最後の一瞬に確認できた。  あとはもう振り向きもせず、早足で歩く。  校舎内に入ってから、りんたちの姿がないことを確認して。
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