愚神と愚僕の再生譚
3.ある家族のかたち⑦ どうしよう、どうしよう……
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◇ ◇ ◇  冬の快晴はすがすがしいが、その一方で、身が縮こまるほどの寒さももたらす。  がたがたと膝が震えている。しかしそれは、寒さから来るものではないと分かっていた。 (どうしよう、僕のせいだ……)  母と早々に別れてなんとかしようと思ったものの、どうすればいいのか分からない。訓練校の敷地内を当てもなく歩きながら、リアムは唇を震わせた。 「どうしよう、どうしよう……」  妹を消してしまった。自分はなんてひどい兄なんだ。  なんとかサンタと連絡を取って、妹を取り返さなければ。 (でも、サンタの住所なんて知らない……それにもし、サンタがすごく怖い人だったら?)  良い子には優しい反面、悪い子にはとてつもなく厳しいかもしれない。さらった者をトナカイに食べさせるくらいだ。その厳しさはきっと、血なまぐさい厳しさに違いない。  ぞわっと背筋に寒気が走る。  悪寒にちゅうじつに対応するなら、取りあえず必要なのは、なにかしらの武器だ。  リアムは体育館へと足を向けた。 (武器を用意して、それからサンタの住所を調べよう)  図書館のパソコンは6年生からしか使用できないが、司書に頼めばたまに使わせてくれることもあった。インターネットを利用すれば、サンタの住所も分かるかもしれない。  体育館に着くと、リアムは靴を脱いでそろりと中に入った。別に忍ぶ必要はないのだけれど、後ろめたさが自然とそういう動きをさせた。  体育館の中に人はいない。自主訓練や運動ができるよう解放されてはいても、寒さきわまる体育館にいるより、暖かい談話室で親と過ごす方がいいに決まっている。  リアムは館内倉庫へと足を踏み入れた。 (きちんと片づけなくてよかった)  丸められた運動マットの隙間から、けんとカートリッジを取り出す。本来なら保管室に返却しなければいけないのだが、昨日きのうは早く母に会いたくて、掃除後ここに隠していたのだ。 (ほんとはナイフとかの方がいいんだけど……)  刃物は手に入れるのが難しいから、これで我慢するしかない。  倉庫を出ると、そばの出入り口――まさにリアムがそこから外に出ようとした扉だ――から、人の気配がした。 (やばい!)  無断でけんを持っているのを見つかったら処罰される。  リアムは倉庫へと舞い戻った。倉庫扉から、様子をうかがう。体育館に入ってきたのは…… (サンタ⁉)  危うく叫びかけ、自分の口を両手で塞ぐ。  体育館に入ってきた人影。それはまぎれもなくサンタだった。
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