愚神と愚僕の再生譚
4.終息する変事③ なんで私ばっかりこんな目に遭うのよ!
◇ ◇ ◇
取りあえず、また機会を失う前に小用だけは済ませて。
女子トイレから出てきた凜と目が合うと、リュートは軽く片手を上げた。
「よお」
「うわ待ち伏せとかキモッ」
ゆがめた顔を身体ごと背け、逃げ去ろうとする凜。
リュートはトイレ向かいの壁から離れ、彼女の肩を後ろからつかんだ。
「角崎、待てって」
「……まさかあんたもトイレ寄った? せめて手は洗ってるんでしょーね?」
「当たり前だ!」
引き気味に振り返る凜に短く叫び、彼女の前へと回り込む。
「ひとりじゃ危ないだろ」
「うるさいわねっ。一緒にいたって大して役に立ってないくせに!」
凜はズバッと切って捨てると、靴先で壁を小突きだした。
「あーもう、本当いい加減にしてほしいわ。死んだキモおやじに八つ当たりされたり変態守護騎士と一緒につながれたり……なんで私ばっかりこんな目に遭うのよ! 一体私にどうしろっていうの⁉」
昼休み中のため廊下には生徒が行き交っているのだが、凜はそんなことお構いなしに当たり散らしていた。
被害ばかりを訴える凜にさすがにいら立ちが募り、リュートは腕を組んで皮肉を発した。
「さーな。須藤や山本に土下座でもしてみればいーんじゃねえか?」
「はぁっ⁉」
凜は金切り声を上げると、限界まで眉をつり上げた。
「もういい! あんたウザいし!」
「おい、だから待てって!」
早足で去ろうとする凜を追い越し、リュートは再び立ち塞がった。
「ちょっとついてこないでよストーカー!」
「そういう問題じゃねーだろ!」
「別にあんたに関係ないでしょ! なに? あんた私のことでも好きなわけ⁉」
「あ⁉ んなわけねーだろっ! つかお前みたいなクズ、誰ひとりとして好きにならね――」
勢いでまくし立てて、はたと口をつぐむ。
凜の目に涙がにじんでいた。
その顔は、目にたまる水を意地でも流したくないとばかりに不自然に引きつっており、口はぎゅっと一文字に閉じられている。
予想外の出来事に動揺し、半歩身を引くリュート。
「な……んだよ。お前だって、いつも俺のことぼろくそに言ってるじゃ――」
「るさいっ!」
どんと肩口を殴られる。
凜は拳をリュートの肩に押し当てたまま、下を向いて叫んだ。
「うるさいのよあんたは! もう、私のことなんてほっといてよっ!」
とどめにもう一発拳をたたきつけ、凜は逃げるように駆け去った。
取り残されたリュートは、不服げに口を曲げるしかなかった。
(……別にいいさ。堕神が関わってるわけでもねーし、あいつ自身が拒んだんだ。残魂に狙われるのだって、自業自得ではなくとも因果応報だろ。わがままなガキひとりに俺が構う義理は――)
散々言い訳を並べ立て、到達した結論は。
「……くそ、年上って損だ」
リュートは凜の姿を求めて駆けだした。
◇ ◇ ◇
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