愚神と愚僕の再生譚
2.くすぶる憎悪④ ただ衝撃だけが通り過ぎていく。
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(全然期待できねーな。無駄足だったか、くそ) 「あの、やっぱり俺――」 「そうね。やっぱり、オーソドックスなものから手当たり次第に試すしかないわね」  やっぱり帰る、という言葉を、発する前にねじ曲げられる。  ツクバはすくっと立ち上がると、 「んじゃ、外出るよ」 「外?」 「ええ、そっちの方がやりやすい。いろいろ試すならね」  言い終えぬうちに、ツクバは隅にある段ボール箱を引っかき回し始めた。よりすぐったらしいなにかを、立ち上がったリュートに、振り向きもせず投げ渡してくる。 「はい、これ持ってって。あとこれも」 「ちょ、わっ」  狙いが適当なため、こちらから手を伸ばさなければれることすらできない。  あっちこっちに翻弄されながら、一抱えほどの道具をリュートが両腕に収めたところで、 「ほら、早く外持ってって。残りはあたしが持ってくから」  ツクバがおざなりに、しっしと片手を振ってくる。 (なんだかなぁ)  言われた通り外へ出るためブーツを履き――手が使えないため、め具もろくにめてないが――、自由な指先だけでなんとか扉をける。そのまま足を踏み出し、 「?」  なにかを踏んで停止する。  どかした足の下から出てきたのは、かみくずだった。くしゃくしゃに丸められており、よくよく見れば…… (つーか、さっきツクバが捨てた張り紙じゃねーか)  それが今ここに落ちているということは、つまり。  リュートは疑似質量応用科学研究会――ギジケンの扉を見やった。そういえば研究会室にいた時、ギジケンの扉がく音を聞いたような気もする。  ギジケンからざんこん研究会の扉へと視線をスライドさせ、そこまでする義理はないよなと思いながらも――結局、ごみというかなんらかの見苦しい怨念のぶつけ合いをめるため、リュートは靴先でかみくずを蹴り上げた。  荷物を抱えたまま危なげにキャッチして、入れるにはやや大き過ぎる感のあるそれを、ぎこちない動作でポケットにやりしまい込む。 「なんで俺がこんな気苦労を……」  ぼやきながら歩を進める。  具体的にどこで待つかは聞いてはいないが、ここはグラウンドの一角だ。どこで待とうと大差はないだろうと、リュートは適当なところで足をめ、地面の上へと荷物を置いた。  背筋を伸ばして待っていると、やがてツクバが研究会室から出てきた。なにやら液体の入った、バケツ大のボトルを両手に抱えている。  リュートもツクバへと近づきながら、後ろの荷物を指さし、 「あ、先輩。荷物適当に地べたに置いちゃいましたけど、構わな――」  たたきつけるような衝撃に、言葉が途切れる。  視界はゆがみなにも見えない。  鼓膜が捉えるのは、自分を揺さぶるひとつの音だけ。  こちらの都合も感情も無視して、ただ衝撃だけが通り過ぎていく。  そして。  正面から問答無用になんらかの液体をぶっかけられたリュートは、髪から透明な液体をしたたらせながら、ただ一言、 「……なんで?」 「こーら。先輩にタメ禁止!」  ボトルを片手に、ぽかりとリュートの頭をたたくツクバ。 「すみません。でもなんでですか? つかなんなんですかこれ」  リュートは謝りつつ、自分の身体からだを見下ろした。上半身まで、制服ごとべっとりとれている。  ツクバはあっけらかんと、 「聖水。安かったから、つい買っちゃったんだよね。でも使う機会なくて」 「で?」 「賞味期限、来週なの」 「賞味期限? 聖水に?」 「そういえば変ね」  むしろなんで今まで疑問に思わなかったのかいただしたくなるようなのんな口ぶりで、ツクバ。 (セシルのやつ、なんでこんなポンコツ研究会を認可したんだよ……)  どんよりとよどむリュートの気持ちを知ってか知らずか、ツクバは楽しそうに、リュートの運んできた荷物をかきあさっている。 「そうね。まずはこれと……これもかな。あとこれ」  彼女は幾つかの道具? を手に立ち上がると、こちらを振り返ってにんまりと笑みを浮かべた。 「さ、試しましょ」 ◇ ◇ ◇
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