愚神と愚僕の再生譚
1.守護騎士来校⑦ それは剣と呼ぶには、あまりにも不格好な代物だった。
――それは剣と呼ぶには、あまりにも不格好な代物だった。
中が空洞になっている剣柄。それと一体化した40センチほどの剣身は、刃どころか鋭角すらない。表面には小さな穴が大量に開けてあり、そこから剣身内部の隙間をたどれば、柄の空洞へとつながる仕様である。ついでに言えば基調色は艶のない漆黒で、緋剣という割にどこも赤くない。
堕神を殴打するのにも役立ちそうにない武器だが、リュートにはこれで十分だった。
というより、これでなければ駄目なのだ。
堕神との距離は約5メートル。
先にその距離を詰めたのは相手だった。巨大な体軀の割に素早い動きで、下半身を階下に透過させたまま空間を走ってくる。
「いくぞ」
ひゅっと漏れる自分の息の音を聞きながら、リュートはカートリッジを柄の中へと挿し込んだ。
柄に仕込まれた棘に破られ、カートリッジ内の液体が剣身の内部へと流出する。当然の帰結として、液体は剣身の穴から外へと漏れ出てくるが。
「…………」
流れ出る液体に意識を集中させ、鋭い刃をイメージする。
途端、それに応えるように液体がうごめきだした。重力を無視して浮かび上がり、剣身へとまとわりつく。
液体の正体はリュート自身の血液だった。神僕は血中の特殊な因子に干渉することで、己の血を凝固させられる。因子を含んだ血の刃だけが、堕ちた神を傷つけられるのだ。
「来い」
緋剣への集中は持続させたまま、リュートは足を踏み出した。
堕神の攻撃は単純だ。眼前の敵を殴るか、蹴るか、切り裂くか。
しかしだからといって、片手間に駆逐できるほど弱くもない。
互いに十分近づいたところで、堕神が腕を振りかぶる。リュートは右足で強く踏み込み、可能な限り姿勢を低くした。
頭上数センチを巨大な拳が通り過ぎていく。多少ひやりとしたものを感じながら、逆手に握った剣柄に手を添え、勢いに乗せて堕神の脇腹を斬りつける。
これが他の生物だったなら、のけ反るなり悲鳴を上げるなりしただろう。しかし堕神は痛みを感じないし、出血もしない。十分なダメージを与えればこの世界から排除できるが、そのために必要なダメージには個体差がある。
だから、間髪容れずに床下から堕神の脚が現れても、なんの不思議もなかった。
「ちっ」
堕神の手足は、身体の部位の中でも特に硬い。
リュートは飛び込みの要領でジャンプし、回し蹴りをやり過ごした。緋剣で己を刺さないよう注意しながら、前転して体勢を整える。
堕神が振り向くよりも、こちらが一撃を入れる方が速い。その判断よりも先に身体は動き、両手で剣を振りかぶっていた。
(終わりだ!)
剣を振り下ろすべく力を込め――
突然、背後の次元がずれた。
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