愚神と愚僕の再生譚
5.自民族中心主義⑩ どーすんだよこれ!
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 赤い《》に、引きつった自分の顔が映っている。  しんが腕を振りかぶる。 「どーすんだよこれ!」  誰にともなく叫び、倒れ込むようにして右に転がる。そのせいで一瞬、しんが視界から消えるが、相手の次の行動など見なくたって分かる。空振りしたなら、また殴りかかるまでだ。 「くそっ!」  手が使えないため腹筋の力で起き上がり、教室後部の机へと駆け寄る。 (ここじゃ動きにくい。外に出ねえとっ……)  幸いグラウンド側の窓が開いている。低い位置にある小窓からでは身体からだが通らないので、出るとしたら、その上の大窓だ。寄せ集められた机は助走台には危なっかしいが、多少勢いをつける分には問題ない。  リュートは縛られたまま机上に跳び上がり、窓の外に向かって思い切り踏み切った。 「おい、こっちだぞ!」  しんに呼びかけながら窓を越す。  そしてそのまま頭から地面に――というのはさすがに怖いので、壁を蹴って地面には肩を差し出した。両手が使えないためろくに受け身も取れず、無様に転がり口に砂が入る。 「ちっ」  リュートは起き上がり、ぺっと砂を吐き捨てた。  休む間もなく植え込みを跳び越え、防球ネットをひらき口から通り抜け、しんをグラウンドへと誘い込む。グラウンドの一部はげんしゅつに備えて常時空けてあるため、生徒の心配をする必要もない。 (問題は俺の安全か) 「くそっ角崎のやつ。きつく縛りやがって」  足はめぬまま、憎々しげに見下ろす。  縄は身体からだの間に隙間を生まないよう、けんやカートリッジも巻き込んで複雑な縛り方がしてあった。結び目がどこにあるのかも分からない。りん本人ですら、どう縛り上げたのか説明できないだろう。げんしゅつのタイミングに合わせたのかと思うほど、絶妙な嫌がらせだ。 (……いや、俺が間抜けなだけか。ただ拒否すればよかったんだ)  無意味な後悔は捨て置いて、なにか鋭利なものでもあったり落ちたりしていないかと、わらにもすがる思いで見回す。が、なにひとつとして見つからない。  と、グラウンドの向こうで練習をしているサッカー部員たちが目にまった。彼らに助けを求めるという考えが浮かばなかったといえばうそになるが、数瞬のちゅうちょを挟んでその案は却下した。  管轄境界線にある程度の幅をもたせた通常体制とは異なり、たすき高校のげんしゅつ対応は、リュートに一任されている。即座の応援は期待できないだろう。  できることといえば、リュートから対処の報が届かないことに疑問をもったセラが、様子を見に来てくれるのを待つくらいしかないが。 「くっそ」  しんはもうグラウンド上を走ってきていた。  割と本気で絶望し始めたその時、 「天城君!」  リュートが飛び出した多目的室の窓から、明美が顔を出していた。思わず足がまる。 「須藤っ⁉ なんでここに⁉」 「水谷さんに言われて呼びに来たの! 守護騎士ガーディアンのクロスボウ、せっかく借りてきたから天城君に試してみてほしいって。ここにいるなんて思わなかったから、見つけるのに時間かかっちゃったけど……でもなんで縛られてるのっ?」  クロスボウを掲げて問う明美。声を張り上げてはくれているが、距離があるため聞き取りづらい。  リュートはしんに気を配りながら、要件だけを叫び返した。 「それは後で話す! 須藤は隠れてろ!」 「でも、その縄を解かないとっ……」  窓を乗り越えこちらに来ようとする明美。  こちらが足をめたことで、しんはだいぶ距離を詰めていた。  リュートは再び駆けだしながら、顔を後ろに向けて怒鳴った。 「馬鹿、こっち来んなっ!」 「でも!」 「縄は自分でなんとかする! とにかく来るな! 君は特に危ないんだよっ!」 「なんでっ? 私が鬼に触れられるから?」 「なっ……」
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