愚神と愚僕の再生譚
2.地球人と疑惑と渡人⑤ 世界の全ては、寂しがり屋の女神から始まった。
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◇ ◇ ◇  世界の全ては、さびしがり屋の女神から始まった。  女神は、自分以外は誰もいない虚無の場に、自分の仲間を求めた。  しかし心ある命を創り出すことはできず、女神は命を少しずつ育てていくことを試みた。空を創り、大地を創り、ごくごく単純な命から、複雑なしんたい構造をもつ命、感情をもつ命、心をもつ命と、徐々に育てていった。それらが極限の進化を遂げ、自分と同じ存在へと転化した時、女神はようやく仲間をもてた。  だが仲間だと思っていたのは、女神だけだった。支配欲が生まれた彼らは、自らが統治できる世界を求めた。そしてそのためには女神の世界は邪魔だった。彼らは女神にやいばを向け、世界を破壊し始めた。  女神は失望し、彼ら――しんを葬り去ろうとした。しかし完全に滅ぼすには、しんの欲は肥大化し過ぎていた。  しんの魂ごと体内に取り込み浄化する試みは、初めはうまくいっていたものの、次第に女神を体内なかからむしばむようになった。物理的なめっさつに切り替えても、力と自我を奪うことしかできず、消滅寸前まで追い込んではどこかでまた再生されるという、終わりのない攻防が何百年も続いた。その世界の女神のヒトガタ――人間も戦いに狩り出され、いつしか世界をまもしんぼくとなっていった。  それからまた何百年ののち、ある変化が起きた。しんが、女神の創ったもうひとつの世界に侵入し始めたのだ。  そこは箱庭ムントルグルドしんぼくの後に誕生した、もうひとつのヒトガタが生きる世界。  しんぼくは、女神から複製劣化された因子を与えられたが、新たなヒトガタは魂そのものを分け与えられていた。彼らは生の中で魂を昇華させ、やがて命をまっとうする。残された魂は種となり、次の命へと振り分けられる。連綿と続く昇華は魂の総量を増やし、女神の力へと還元される。  箱庭ムントルグルドまもるため女神はふたつの世界を切り分けていたが、力の疲弊がそれを許さなくなっていた。明確な境界を失ったふたつの世界は表裏一体となり、しんは、箱庭ムントルグルドにある女神の力の源――ヒトガタの魂に引き寄せられるようになったのだ。  しん箱庭ムントルグルドへの侵入は致命的であった。もししんがヒトガタの魂を取り込めば、それはそのまま、女神の弱体化・しんの強化につながる。そうでなくてもしん箱庭ムントルグルドをさまようだけで、世界の活力は奪われていく。  女神は自身とその魂をまもるため、しんぼくを連れて箱庭ムントルグルドへと渡った。そして力の回復に専念した。女神の意志を継いだしんぼくおさは、箱庭ムントルグルドのヒトガタ――地球人をまもるシステム・文化を構築し、地球人にわたりびとという存在を認めさせた。  こうして旧世界の神僕ニンゲンが、新世界の地球人ニンゲンまもるという枠組みが構築された。 ◇ ◇ ◇
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