愚神と愚僕の再生譚
2.地球人と疑惑と渡人⑤ 世界の全ては、寂しがり屋の女神から始まった。
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世界の全ては、寂しがり屋の女神から始まった。
女神は、自分以外は誰もいない虚無の場に、自分の仲間を求めた。
しかし心ある命を創り出すことはできず、女神は命を少しずつ育てていくことを試みた。空を創り、大地を創り、ごくごく単純な命から、複雑な身体構造をもつ命、感情をもつ命、心をもつ命と、徐々に育てていった。それらが極限の進化を遂げ、自分と同じ存在へと転化した時、女神はようやく仲間をもてた。
だが仲間だと思っていたのは、女神だけだった。支配欲が生まれた彼らは、自らが統治できる世界を求めた。そしてそのためには女神の世界は邪魔だった。彼らは女神に刃を向け、世界を破壊し始めた。
女神は失望し、彼ら――堕神を葬り去ろうとした。しかし完全に滅ぼすには、堕神の欲は肥大化し過ぎていた。
堕神の魂ごと体内に取り込み浄化する試みは、初めはうまくいっていたものの、次第に女神を体内からむしばむようになった。物理的な滅殺に切り替えても、力と自我を奪うことしかできず、消滅寸前まで追い込んではどこかでまた再生されるという、終わりのない攻防が何百年も続いた。その世界の女神のヒトガタ――人間も戦いに狩り出され、いつしか世界を護る神僕となっていった。
それからまた何百年の後、ある変化が起きた。堕神が、女神の創ったもうひとつの世界に侵入し始めたのだ。
そこは箱庭。神僕の後に誕生した、もうひとつのヒトガタが生きる世界。
神僕は、女神から複製劣化された因子を与えられたが、新たなヒトガタは魂そのものを分け与えられていた。彼らは生の中で魂を昇華させ、やがて命をまっとうする。残された魂は種となり、次の命へと振り分けられる。連綿と続く昇華は魂の総量を増やし、女神の力へと還元される。
箱庭を護るため女神はふたつの世界を切り分けていたが、力の疲弊がそれを許さなくなっていた。明確な境界を失ったふたつの世界は表裏一体となり、堕神は、箱庭にある女神の力の源――ヒトガタの魂に引き寄せられるようになったのだ。
堕神の箱庭への侵入は致命的であった。もし堕神がヒトガタの魂を取り込めば、それはそのまま、女神の弱体化・堕神の強化につながる。そうでなくても堕神が箱庭をさまようだけで、世界の活力は奪われていく。
女神は自身とその魂を護るため、神僕を連れて箱庭へと渡った。そして力の回復に専念した。女神の意志を継いだ神僕の長は、箱庭のヒトガタ――地球人を護るシステム・文化を構築し、地球人に渡人という存在を認めさせた。
こうして旧世界の神僕が、新世界の地球人を護るという枠組みが構築された。
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