愚神と愚僕の再生譚
8.神苑を生きる者たち④ ――ような気がした。
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「ったく、めんどくせえやつら」  息を吐き、ふとセラのかばんからのぞく物に目がまる。 「お前、デジカメなんて持ってんのか?」 「角崎対策よ」  問われたセラはデジタルカメラを取り出し、なにやら自信満々に語りだした。 「角崎りんの悪行をきちんとカメラに収めておくの。で、このまま改善が見られない場合は、彼女にしかるべき報いを受けさせる」 「報い?」 「いずれ彼女が大学を受験するとき、悪行を捉えた写真を、匿名で志望大学に送るの。もちろんインターネット上にもさらす」 「いやそれ、絶対俺らが犯人ってバレるだろ、角崎のことだからさらにやり返してくるぞ。それだけならまだしも、わたりびとの立場が悪くなったらどーすんだ」  半ばあきれて言い募る。  が、どこにそんな自信があるのか、セラはリュートの指摘を一笑に付した。 「大丈夫。彼女も後ろめたいから、大々的にはこちらを批判できないはず」 「でもその前に、飯島先生に相談するとか。お前も言ってたじゃねーか」 「期待できない。お兄ちゃんも言ってたじゃない。正直、教育的指導なんて求めてないし、なまっちろい扱いで社会に出る方が危険よ。カバの皮膚並みに厚い面の皮も、一度徹底的に潰せば人並みに戻るんじゃない? それに改善したら報復しないんだから、あのゲス女にだってチャンスはあげてるわ」 「……お前、ちょいちょい口が悪いよな。兄ちゃんは悲しい」 「なによ、お兄ちゃんのためでもあるんだからね!」 『お兄ちゃん?』  聞こえていたらしい。話をしていた明美と銀貨が、きょとんと振り返ってくる。リュートたちが兄妹という件は、今更ややこしいので説明する気はなかったのだが。 (こうなったら、言わない方がややこしいか?)  しかし訓練校では変わらず、リュートとセラの関係については伏せられたままだ。万が一を考えると、たすき高校でも他人を貫いた方が安全だ。 「あーっと。その、えと」  意味のない言葉を重ねて、なにかいいごまかし方法はないかと考えるが、思いつく前に銀貨たちは自分で納得したようだった。 「りゅう君の趣味をどうこう言う気はないけど、さすがにお兄ちゃんって呼ばせるのは、どうかなーとは思うよ僕」 「私もちょっと、それは」 「そっち方向行く前に、到達すべき常識的な発想あるだろ⁉」  勝手に誤解して引き気味なふたりに、リュートは指を突きつけた。  セラが「まあまあ」とリュートをなだめ、 「ほら、リュート様って変な名前だから。新しい愛称を考えようかと思ってまして」 「どんなフォローだよそれは! つかセラ、俺の名前変って思ってるのかそーなのか?」 「あー、確かに。ちょっと浮いてる感じはするよね」 「お前にだけは言われたくねーよ! なんだよ山本銀貨って⁉」 「分かってないなありゅう君。これは深い意味を込めた名前なんだ。金貨という一番じゃなくてもきっと輝くことができるという、全ての二番手にささげる崇高な名前さ」 「なんの疑問もなく自分を二番手と思える辺りがずうずうしいですね」 「え、あれ? 瀬良さん、なんか僕に厳しくない?」  軽くショックを受けたように、銀貨。  と、笑って見ていた明美が、思い出したように声を上げる。 「あ、そういえば天城君。劇のことだけど江山さんが、休んでいる間に当然台本は読み込んでるだろうから期待してるって」 「なんで当然だよ読んでねえよ!」 「私に言われても」 「大丈夫だよりゅう君。読み合わせの練習なら僕が手伝ってあげるから」 「うっせえ貨幣は黙ってろ!」  まだ癒えぬ傷の痛みにさいなまれながらも、学校への道のりを歩みつつ、思う。  粛々と日々を過ごすのとは違う。なにかに恨みをぶつけて時を重ねるのとも違う。 (まあ、これはこれで充実してる……のか?)  いまいち自信はなかったが、前よりは少しだけ、悪くないと思うことが増えた――ような気がした。 《第1章》神苑しんえん守護騎士ガーディアン――了
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