愚神と愚僕の再生譚
2.至極まっとうで謙虚確実な報酬の取得手段すなわち有償奉仕② 歓迎するぜ
◇ ◇ ◇
椅子の背に手を添えながら、ゆっくりと立ち上がる。特に負荷は感じない。
ぎしぎしときしむ骨に若干の不安は残るものの、体重の方は無事元に戻ったようだ。
(ったく。ようやくまともに動くようになったぜ)
リュートは安堵の息をついた。昼食も兼ねて、体重が戻るのを食堂で待っていたのだが、なかなか変化が起きないから心配になってきたところだった。
午後は用事が詰まっている。身体が戻ったのなら、食堂に長居は無用だ。
空のランチプレートを返却すると、リュートは数時間ぶりに軽くなった身体を存分に動かし、すたすたと食堂を出た。寮室から取ってきた緋剣が、歩みに合わせて揺れる。向かうは駐車場だ。
(約束は14時だったよな。ってことはセラのやつ、もういるんだろうな)
基本的に、妹は時間に忠実だ。10分前ともなれば、いると思って間違いない。
(……そうか。時計ってのもいいな)
左手首の腕時計を見ながら、思いつく。
それをきっかけにいろいろな考えが浮かび、あーでもないこーでもないと脳内会議をしているうちに、駐車場へとたどり着いた。
案の定そこにはすでに、金髪の少女の姿があった。駐車上脇のコンクリートブロック塀に腰掛けながら、こちらが近寄る一挙一動を、じっと視界に収めている。
リュートが目の前に来ると、セラは叱るように言ってきた。
「遅いわよお兄ちゃん」
「言うほど遅れてないぜ。ちょうどくらいだ」
「10分前行動! 基本でしょ」
「すべき時はしてんだからいーだろ」
「へえー。私との約束は『すべき時』じゃないんだ」
目をすがめるセラに、リュートは片手のひらを向けた。
「突っかかるなって」
「突っかかりたくもなるわよ。そのせいで、なんか面倒くさそうな子に絡まれたんだから」
「面倒くさいって?」
「異様なまでの女神信奉者」
「それお前じゃん」
ズバリ言うが、セラは首を横に振った。
「表向きの、でしょ。本当は『これ』なんだから、相手するだけで疲れるのよ」
「そっかそっか。ならその気持ちを大切にして、お前も普段のテンション調節してくれよな。俺だって結構疲れるんだぜ」
「そんなこと知ったこっちゃないわ」
「せめて仕方ないふうは装えよ」
非対称に顔をしかめ、リュートは駐車上の入り口へと目を向けた。そろそろ到着するはずだった。
セラもつられるようにして、身体ごと視線を動かす。
今か今かとふたりで待ち構えていると、それはもったいぶるように、ゆっくりと駐車上に入ってきた。
守護騎士の出動車ではない。世界守衛機関の公用車だ。黒い車体が反射した日光に、リュートは目を細めた。
邪魔にならないよう注意しながら、セラと共に車へと近づいていく。
バック駐車で停止した車の後部ドアが開き、若い女守護騎士が出てくる。目が合ったので会釈すると、彼女も同じように返してきた。
女守護騎士が車の後ろから回り込み、反対側の後部ドアを開ける。
中から出てきたのは、リュートの見知った顔だった。
「ありがとうございます」
彼女はドアを開けてくれた守護騎士に礼を言うと、こちらの姿を捉えて顔を緩めた。普段縁のないものに囲まれ緊張していたところに、ようやく見慣れたものを見つけてほっとしたのだろう。
「こんにちは。天城君、水谷さん」
とてとてとうれしそうに駆け寄ってくる彼女に、リュートたちは歓迎の意を示した。
「こんにちは。ようこそ渡人の学校へ」
「まあ面白いもんなんて特にないけどな。歓迎するぜ、須藤」
◇ ◇ ◇
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