愚神と愚僕の再生譚
4.抜き打ち模擬戦トーナメント① 朝っぱらって、もう9時ですよ?
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◇ ◇ ◇  心地良いまどろみの中、うっすらと目をける。  熟睡したのか夢の内容は覚えていないが、久々にいい夢を見た気がする。不快な眠気もなく、脳はもう十分目覚めの準備ができていた。  しかし、それを無視してこの心地よさに浸るのが至福なのだ。  枕に顔をうずめたまま、薄らいでいく睡魔にあえてしがみつく。麻薬にも似た多幸感に、思考が溶けていく。 (なんていい気分なんだ……)  地球人の学校も、訓練校と同じく土日は休みとなる。  といっても部活動は行われるから、本来ならリュートもたすき高校で控えていなければならないのだが。 (あいつもたまには、物分かりがいいじゃねーか)  駄目元で、「週に一度は休ませろでなきゃ死ぬ絶対死ぬ血が枯渇して干からびて死ぬ」とセシルに迫ってみたところ、意外にも承諾してくれ、日曜日に関しては正規の守護騎士ガーディアンが代わりに就いてくれることになった。  そして土曜のしょうかいも終え、本日日曜は晴れてまるっと休日だ。今まで当たり前だった休日が、これほどありがたいと思ったことはない。 (もっと、もっと寝ていよう。この素晴らしい世界の中で……)  穏やかに目を閉じ―― 「リュート様! リュート様ぁっ!」  りんと通る呼び声が、問答無用で脳を覚醒させる。 (……知らない。リュートなんて知らない)  今だけリュートではないリュートは、無視して布団を頭まで引っかぶるが、 「リュート様! いないんですか? リュート様っ!」  がん、がんっ、とドアをたたく音が、鋭い針のように直接脳に突き刺さる。 「リュート様。彼女、なんとかして」  布団越しにテスターの声が聞こえてくる。彼にしては珍しく、うんざりとした声音だ。  布団から顔をぶすっと出すと、同じく布団からぶすっと顔を出しているテスターと目が合った。 「リュート様ぁっ! 入っちゃいますよ? ピッキングで入っちゃいますよ?」 「やめろっ!」  根負けして叫び、布団をはねのけ起き上がる。  本気でピッキングを始めたのか、がちゃがちゃ音を立て始めたドアに駆け寄り、鍵を外して勢いよくける。 「なんだよっ⁉」 「うわっリュート様! 変な頭!」  目を丸くしてこちらの頭を指すセラに多少ぐさっときたものの、 「寝起きなんだよ仕方ないだろ! つかなんで男子寮に来てんだよしかも朝っぱらから!」  文句だけはきっちりと言う。両手を使って、慌てて寝癖を直しながら。  セラはヘアピンらしき物を懐にしまいつつ、とがめるように指を立てた。 「朝っぱらって、もう9時ですよ? 寝過ぎです。そんなんじゃ優勝できませんよ!」 「いいだろ別に、せっかくの休みなんだし――……優勝?」  何度押さえても跳ね上がる前髪との格闘を中断し、リュートは聞き返した。  セラはなにがそんなにうれしいのか、目を輝かせて拳を握った。 「抜き打ち模擬戦トーナメントです!」 ◇ ◇ ◇
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