愚神と愚僕の再生譚
4.終息する変事⑥ 耳障りな重奏音が辺りに響いた。
◇ ◇ ◇
4本の鉄パイプが同時に、それぞれ別方向からリュートの元へと向かってくる。
力なく垂れた左腕は緋剣を握ってはいるものの、正直役に立つとは思えない。
(2本はじけばなんとかなるか……⁉)
リュートは最小限の被害を探して目を走らせた。
その時――
もうひとつ迫りくるものを見つけ、迎撃対象を急遽変更する。
左の上下から接近する鉄パイプは無視し、右側上下の鉄パイプをはじき飛ばすリュート。
左のそれらは、リュートが対処するまでもなく乱入者にたたき落とされた。
乱入者――テスターは鉄パイプを打った勢いに乗せて回転すると、リュートの隣に立ち並んだ。
「お前さあ、もう少し自分で頑張ろうぜ?」
「お前こそ、もう少し早く加勢に来いよな」
形ばかりの不平を言い合い、右と左で防御を分ける。
ふたりして堅実に護っているうちに、少しずつ鉄パイプの勢いも衰えてきた。
隙を見て後ろをうかがうと、凜は壁にもたれてうつむいていた。まだ足が痛むのか、苦しそうにも見える。
凜が走れれば、なんとか逃げ切れそうではあるのだが……
迷っていると、テスターが思いもかけないことを口にした。
「山本、そろそろいいぜ!」
「へ? 山……?」
「い、今行くよテスター君!」
リュートがテスターに真意を問う前に、呼ばれた当人が、塔屋の壁沿いにわたわたと出てきた。どうやら安全圏で待機していたらしい。
「テスター、どういうつもりだっ⁉」
鉄パイプをはじきながら罵声を上げる。しかし答えを期待していたわけではなかった。というより、返答を待っている余裕がなかった。
「おい山本! 危ないから下がっ――」
こちらに近寄ってきた銀貨を追い返そうとし、
「て……ろ?」
時が止まったかのように言葉が途切れる。
原因は、同じく時が止まったかのように、一斉に空中静止した鉄パイプを見たからだった。
「な、なんだ……?」
なにかの前兆かと周囲を探るが、なにもない。
「先週末の、山本に対するこいつの反応を思い出したんだ」
警戒は解かないまでも少し構えを崩し、遅まきながらテスターが解説を始める。
「あれが、山本の思念や記憶を読み取った上での反応だったのだとしたら……もしかしてこの男は、山本には仲間意識に似た念を抱いてるんじゃないかって」
「仲間意識?」
銀貨は自分を指さし、疑問符を頭上に掲げると、
「……そっか。こういうことに年は関係ないもんね。きっとこの人だって、ずっとつらかったんだ」
と、鉄パイプを痛ましそうに見上げた。
それを合図にしたように、十数本もの鉄パイプが一斉に地面へと落ちる。耳障りな重奏音が辺りに響いた。
「力尽きたのか……?」
期待を込めてつぶやくが、どうもそうではないらしい。
地面に転がった鉄パイプ。それら1本1本から靄のようなものが生じ、空中に寄り集まり始めた。靄はうごめき、次第におぼろげな人相を描き始める。
一度形を見せた、残魂の生前の姿だ。今度は胸像ですらない、顔だけの姿だが。
『あ……ま……は……』
靄の口が動くのに合わせて、実際に音が聞こえてくる。
それはマイクテストのように意味を成さない音から、徐々にきちんとした言葉へと形を変えていく。
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