愚神と愚僕の再生譚
3.ある家族のかたち⑪ 僕だって分かってるんだ。
◇ ◇ ◇
本屋へ向かう道すがら。
「そういや勇人、こっち来てよかったのか? さっきはあれだけ手伝うって張り切ってたくせに」
勇人の口数が減ったことを気にして――というわけでもないのだが、リュートは積極的に話を振っていた。
「うん、まあ別に……暇潰しになればなんでもいいし」
勇人は明らかに、なにかを気にしているようだった。その問題に踏み込んでいく義理も権利もないのだが、こうも目の前でしょぼくれてしまわれると、なかなか対応に困るものである。
商店街の歩道は狭く、リュートと勇人が並べばもう余裕もない。そんな距離感だからなおさら、沈黙の継続は決まりが悪かった。
開店後すぐに本を取りに行く予定が、気づけばもう昼も間近。すれ違う通行人の中には、渡人の学生と児童の組み合わせにいぶかしげな顔を見せる者もいた。幸い問い詰められることはなかったが。
そろそろ本屋に着くかという頃、勇人の方からその話題に触れてきた。
「僕だって分かってるんだ。母さんは悪くないってこと」
顔は前を向いたまま、勇人が続ける。
「でもサキのことばっかりかまってさ。嫌なものは嫌なんだ」
見下ろしたところで頭頂のつむじしか見えないが、リュートはそのつむじに向かって忠告をした。
「ま、思うだけならいいけど。くだらない気を起こして、変なことやらかさないようにな」
「なんだよ変なことって」
勇人がぶすっと顔を上げる。
「あー、そうだな……」
具体的な失敗例がある方が、参考になるかもしれない。
その程度の考えで、リュートは自分の失敗例を勇人に話した。もちろん外部に漏らせないことは、適当に省いて。
「――ってわけだから、下手なことしても後悔するだけだぜ」
リュートの話を聞き終え、勇人が発した第一声は。
「お前、妹をサンタに売ったのか? ひっでーやつ!」
まあ順当な感想だった。
驚き半分あきれ半分といった形で目を丸くする勇人に、リュートはごまかすように笑いかけた。
「だなー。それに比べたらお前はすねてるだけだから、まだマシかな」
「そんなんよりマシでも、別に全然うれしくない!」
「それもそうか。ま、嫉妬もほどほどに――っと、着いたな」
勇人の髪をわしゃわしゃとなで、リュートは立ち止まった。
目の前には小さなスーパーマーケット。用があるのはそこ……ではなく、その2階部分にある本屋だ。学校用の図書教材を扱っている割に、規模としてはそんなに大きくはない。そういうものなのかもしれないが。
「早く買おーぜ!」
たん、たん、とリズミカルに階段を上っていく勇人に、リュートも続く。
勇人の欲しがっている漫画は、店内の該当コーナーですぐに見つけることができた。しかし、
(ついでに俺もなにか買っとくか)
と思い立ち、漫画を抱きかかえている勇人を連れて、参考書・問題集のコーナーをのぞいてみる。
(結構種類が多いな……あらかじめ絞ってきた方がよかったか……?)
「お前守護騎士なのに、勉強の本買うのか?」
興味をもったのか、単に暇を持て余していることのアピールなのか、勇人が意外そうに聞いてくる。
リュートは棚に並ぶ背表紙を目でさらいながら、
「俺は正規の守護騎士じゃなく、あくまで学生だからな」
「ふーん。頭いいのか?」
「想像に任せる」
「まあ結果出なくても、勉強だけが全てじゃないってアニメで見た」
「任せた手前言いづらいけど、当然のごとくそこに帰結されると多少へこむ」
「あ、いた。お兄ちゃーん」
一瞬自分には関係ないと聞き流しかけてから、リュートはワンテンポ遅れて声に反応する。
「セラ?」
振り向くとそこには、テスターとDAG女の家を張っているはずの、セラがいた。
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