愚神と愚僕の再生譚
6.友達のつくり方⑩ ベストフレンドフォーエバー!
◇ ◇ ◇
梅雨の晴れ間もしばらく続けば、なんのありがたみも感じなくなる。
すがすがしい青空と燦々たる陽光はむしろ、今のリュートにとって嫌みともいえた。
(くっそ……頭が痛え)
「大丈夫ですかリュート様?」
「あんまり……」
隣で聞いてくるセラに、正直に答える。
昨夜飲んだ酒がだいぶ身体にきていた。どうやら自分は、酒には強くない体質らしい。
脳内で誰かがずっとわめいているような不快感にさいなまれながら、リュートは右手で頭を押さえた。
(ともあれまあ、これでやっと解放だ……)
お坊ちゃんのお泊まり会もぐだぐだのうちに終わり、待ちに待った翌朝の帰宅時間がやってきた。
駐車場で迎えの車を待つ健吾を、テスターとセラとともに見送っていると、昨日1日、我ながらよく頑張ったと思えてくる。
「わ、わざわざ見送りなんていいのに」
健吾が上ずった声を上げる。今朝会った時から、どうも様子がおかしかった。妙に殊勝だし、まるでなにかにおびえているようだ。今もまた、さして暑くもないのに汗を垂れ流している。
それを拭うためか、健吾がポケットからハンカチを取り出す。すると、それに引きずられてスマートフォンが地面へと落ちた。
「落ちましたよ健吾様」
リュートが拾い上げると、
「あ、ああああありがとうリュート君!」
震える手でスマートフォンを受け取る健吾。
やはりおかしい。
眉をひそめるリュートに、健吾はご機嫌を取るように続けてくる。
「そそそそうだ。約束通り、学長にはちゃんと言っておいたから」
「? なにを?」
「やだなあ。ぼ、僕たちが友達だってことをだよ」
「あー。そっか、そうだったな。さんきゅ」
「なあに当然のことだよ、なんてったって友達だからね。ベストフレンドフォーエバー!」
健吾が半泣きで笑ったところで、迎えの車が到着した。いかにもな高級車だ。
「じゃ、じゃじゃじゃじゃあ僕はこれで。楽しかったよありがとう!」
「ああ、またな」
そそくさと車に乗り込む健吾に、リュートは社交辞令を返して手を振った。
去っていく車を見送りながら、両隣のふたりに言う。
「わざわざセシルに伝えてくれるなんて、あいつ割といいやつなんだな」
返ってきたのは沈黙。
リュートはきょとんと目をまたたいた。
「どした?」
「お前……その感じだとやっぱり、酔っ払った時のこと覚えてないのか?」
あきれたように顔をしかめて、テスターが聞いてくる。
リュートはそれが意味するところを一考し、
「ん? ああ、あれか。あんなんふりに決まってんだろ」
さらりと言ってのけた。
「へ? そうなの?」
今度はセラが目をまばたかせる。
「当然。演技だ演技」
「だとしたら……ちょっと悪ノリし過ぎ。さすがにあの人がかわいそうよ」
幻滅したように半目になり、ぷいと横を向くセラ。
(……あれ。俺まさか、結構やばいことやっちまったのか?)
実は酔っ払っていた時のことは、テスターの言う通り全く覚えていなかった。つい見栄を張って計算ずくの演技を装ってしまったのだが、まさかここまで蔑視されるとは思わなかった。
「そこまでひどくはないだろ?」
聞くも、セラは顔を背けたままだ。テスターへと視線を転じると、フォローできないとでも言うように、目をそらされた。
(俺、なにやったんだ……?)
今更「記憶にないんです」とも言えず、リュートは車の去っていた方を見ながら、ひそかに心に決めた。
もう酒は飲まないでおこうと。
◇ ◇ ◇
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