愚神と愚僕の再生譚
4.抜き打ち模擬戦トーナメント⑦ 爛々と輝くセラの瞳に。
◇ ◇ ◇
コツ、コツ……と足音が、狭い空間に反響する。照明はあえて絞られているのか薄暗く、足元を照らすには心もとない。
第23高等訓練校と同じ敷地内にある、世界守衛機関本部。その地下にある女神の間では、生きとし生けるものの母――女神が身体を休め、力の回復を図っているという……
警守の許可を得た者だけが通れる階段を下りながら、リュートは気が張り詰めていくのを感じていた。最後に感じたのは何年も前なのに、この感覚を、昨日のことのように覚えている。
(……この場所は、やっぱり嫌いだ)
だというのに、自分はなにをしに来たのか。なにかできるわけでもないのに。
胸に拳を当て、自虐的な笑みをこぼす。と、
「あの、リュート様……大丈夫ですか? そんな間抜けな顔になっちゃって」
「間抜……君、この雰囲気でそれを言うか?」
隣を歩くセラに、リュートは半眼を返した。右目の周りにできた青痣をなでながら、数十分前の乱闘を思い返す。
あの後すぐに教官が止めに入ってきて事なきを得たが、たっぷり絞られてしまった。罰として優勝賞品もふたつ無効になった。まあ本命は残してもらえたのでよかったが。
「俺だっていろいろフラストレーションたまってんだよ」
「気にしてたんですね。じじむさ小僧のこと」
「いやそこは別に」
「私はリュート様のこと、じじむさだなんて思ってませんよ」
「だから気にしてねえって」
「じじむさっていうのは、大人びてるってことでもありますし。私はじじむさいところも含めて、リュート様のこと尊敬してますよ」
「含めたよな今積極的に盛り込んだよな」
「にしても、リュート様の神気は本当すごいですね。鍛錬のたまものですか?」
迷いも悪びれることもなく堂々と話題を変えるセラ。
この流れで引きずる話題でもないが、せめてふてたまなざしだけを返してから、リュートは答えた。
「セシルによると、女神のせいらしい」
「女神様の?」
「俺は間近で女神の力に触れ続けた。神気の強さや著しく高い治癒力は、その影響が現れたものなんじゃないかって、昔言われたな」
「…………なるほど。つまり女神様を強く慕う心が、リュート様を強くしたのですねっ!」
わずかな照明すら集めて、爛々と輝くセラの瞳に。
「……ははっ」
笑えてくる。なにも知らずに信じていれば、ここまで純粋になれるのか。
(俺はもう無理だな。あとはもう、これ以上致命的なことをしないよう踏ん張るしかない)
扉が見えてきた。無駄に装飾の多い、重厚な両扉が。
「着いたぞ」
両手で取っ手をつかみ、ゆっくりと押し開く。皮肉なまでに演出過剰な笑みを浮かべて。
「ここが我らが――女神の間だ」
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