愚神と愚僕の再生譚
2.不干渉の境界線① お前も守護騎士なのか?
◇ ◇ ◇
「お前も守護騎士なのか?」
偉そうな口を利く少年に、
「いや、俺はまだ違うぜ」
少年の目線に合わせてしゃがみ込んだテスターが、答える。
少年は難しげに考え込み、
「じゃあお前は……シモベ2号だっ。シモベ1号の、さらに下だから」
「あー、違う違う」
テスターは手をぱたぱたと振ると、少年に向かってもっともらしく続けた。
「リュートは俺の召し使いだから。もし俺が僕なら、あいつは奴隷1号。分かったか?」
「分かった」
「分かるな!」
聞き捨てならない会話に、さすがに声だけ割って入る。
リュートとテスター、セラに少年と、全員地下道の壁際に集まって。
リュートがセラから手当てを受けている間、暇を持て余したテスターが、少年の話し相手になっていた。
「まったく。せっかく治りかけてたのに馬鹿やって。挙げ句緋剣も奪われて」
ぶつぶつ言いながらも、リュートの傷口から血を拭き取り、止血テープを貼るセラ。自身を壁に少年からは血なまぐさい光景を隠しながら、てきぱきと包帯を巻いていく。
地面に座り込んでいたリュートは、されるがままに包帯を巻かれながら抗弁した。
「いや不可抗力だろこれは」
「なんでも不可抗力って言えば済むわけじゃないのっ!」
「っ……」
ぎゅっと包帯を締め上げられ、うめき混じりの吐息が漏れる。
日曜の朝なので比較的少なくはあるものの、通行人の姿はまばらにある。今もまた。
近づいてくる人の気配に顔を上げると、中年の女性と目が合った。
女は包帯姿のリュートや、そばに置かれた血染めのガーゼを見て、怪訝なまなざしに心配の色を混ぜた。
が、すぐに――リュートが脇に抱えている制服を見たのだろう――理解と、ほんの少しの邪険な感情を顔に表し、立ち止まることなく去っていった。
「…………」
女性の反応は、別に驚くことでもなかった。
特に彼女くらいの年齢層には、渡人に対してネガティブな感情を抱く人が少なくない。渡人と鬼が当たり前にいる環境で育ってきた若年層にさえ、排斥派は存在する。よそ者の乱入を、リアルタイムで経験した層ならなおさらだ。
(……まあ、向こうが関わりたくないなら、こっちも最低限のことだけしてりゃいいし)
頭上を仰ぐ。
真上に位置する線路から、電車の走行音が聞こえてくる。リュートがいつも使っている路線だ。乗車するのは直近の駅ではなく、もう一駅前からだが。
「はい終わりっ」
セラが、リュートの肩をぱしっとたたく。多少手つきが乱暴なのは――妹がにらみやっている方向から察するに――通行人の女性に対する、いら立ちの表れか。
「で、どうするのお兄ちゃん。泥棒女を捜しに行く?」
リュートが服を着るのも待たずに、セラが聞いてくる。
「そりゃもちろん」
緋剣の製造方法自体は極秘というわけでもないので、分解等されても、特に不都合があるわけではない。
とはいえ、守護騎士の装備品が流出するのは芳しくない。特にセシルにバレたときの処分を考えると、よりいっそう芳しくない。
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