愚神と愚僕の再生譚
5.立場の選択⑩ 窓から差し込む日の光を浴びながら
◇ ◇ ◇
「緋剣だ」
「あぐ……」
目の前の机上に投げ置かれた緋剣を見下ろし、リュートはうめき声を上げた。
穏やかな物腰で、セシルが手を組みかえる。
日曜の朝に呼び出しをくらい、嫌な予感はしていたのだ。その予感はズバリ的中したが、まったくもってうれしくない。
「今朝世界守衛機関の事務局宛てに、これが届いた。手紙と一緒にな」
机の端に置いてあった紙を指でスライドさせ、セシルが緋剣のそばまで持ってくる。読めということだろう。
『天城君へ。長いこと取り上げちゃってごめんね。私の考えは譲れないけれど、そっち側のシンポジウムとかにも参加して、いろいろ考えてみたいと思う。護ってくれてありがとう。月島未奈美』
リュートが読み終わる頃合いを見計らい、セシルが手を組み直して口を開く。
「どうやら天城君とやらは、地球人と友好的な関係をつくるのに一役買ったらしい。褒められるべきことだな……しかしまあ、それはそれとして」
セシルが再び手を組みかえる。
一見なんの変哲も無い動作だが、リュートは知っていた。
机に肘を突き、やたら手を組みかえる。これはセシルがいら立っている時に出る癖だ。
「私の記憶によれば、君から緋剣の紛失届は出ていないはずだが?」
「いや、これは……」
「どういうことかね?」
(あの女……俺に連絡しろっつったのに……!)
最後まで迷惑を届けてくれた未奈美に、リュートは呪詛を送り返した。
組んだ手をほどき、セシルがぱんと机をたたく。さも寛大な処置を言い渡すかのように慈悲の笑みを浮かべ、
「処罰に関しては追って通達する。腹部の傷が完治していてよかったよ。こちらとしても遠慮無く罰せられる」
「はは……」
窓から差し込む日の光を浴びながら、リュートはただただ引きつり笑いだけを浮かべていた。
《第2章》共生のススメ――了
応援コメント
コメントはまだありません