愚神と愚僕の再生譚
3.爆ぜる理不尽② 震える声に目をやれば
冷徹に細められたまなざしに射抜かれた凜は、一瞬硬直し――驚愕に目を見開いた。
「っ⁉」
嫌な予感に振り向くと、飛来してくるなにかが目に入った。以前凜にペン入れを投げつけられた時と似た状況ではあったが、接近してくる物体はそんなものよりはるかに速い。
それでも反射神経は追いついてくれたようで、なんとか飛来物体をたたき落とすことに成功する。
手首の骨に伝わる痛みは無視し、リュートは床にたたきつけられた物を見下ろした。
玩具の銃。引き金は引けるのかもしれないが、ディテールは雑で銃口も潰れており、本当に見た目だけの、ただの玩具だ。
「な、なによあれ……」
震える声に目をやれば、ぎこちなく指をさす凜の姿。
その指先の延長には、教室の隅に置かれたふたつの段ボール箱があった。こまごまとした道具が入っているようで、恐らくリュートたちのクラス同様、劇の小道具を保管しているのだろう。
(そういや、このクラスの劇は刑事モノだったな)
変なところに納得しながら、改めて床の銃へと目をやる。
床にその身を任せているはずの銃。それが自然の摂理に逆らい、カタカタと音を立てながら、危なげな動きで宙に浮かんでいく。
それだけではない。段ボール箱の方からも、玩具のナイフが浮き上がってきている。
「なるほど。次はポルターガイスト路線ってことか」
苦笑いを顔に張りつけ、リュートは考えを巡らせた。物体を浮遊させるのは残魂には難しいことのようだが、こちらに対抗策がない以上、拙い小技でも十分厄介だ。
(セシルの胸倉つかみ上げてでも、早いとこ霊媒師呼んでもらわねえと……)
「逃げるぞ!」
教室の外へ出ようと凜の手を引っつかみ、
「ヤだ触らないでよ!」
つかんだ手を、ぱしっとはねのけられる。
リュートは低空飛行で襲ってきた銃とナイフを蹴り飛ばし、
「んなこと言ってる場合じゃねえだろ!」
「成り行きでセクハラすんなって言ってんのよ!」
段ボール箱からさらに小道具が出てくるのを横目に、リュートは再度凜の手をつかんだ。
顔面に向けて手錠が飛んでくるのが見えたが、その勢いではぶつかっても害はなさそうなので無視する。残魂はやみくもに浮遊させているらしい。
「だからっ、そういう問題じゃねえっつって――」
外に出ようと、強引に凜を引き寄せるリュートに、
「だから触るなっつって――」
振りほどこうと腕を振り回し、つかまれたまま殴りかかろうとする凜。そこへ手錠が飛んできて――
がちゃんっ。
押しつけられるような感触とともに、手錠の輪が締まる音。
片方はリュートの左手首に。
もう片方は凜の右手首に。
リュートと凜は、しっかりがっちり締まったふたつの輪を見つめ――
『なんでだよっ⁉』
突っ込みはふたり同時だった。
◇ ◇ ◇
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