愚神と愚僕の再生譚
3.雲下の後悔① ざわっ。
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◇ ◇ ◇ 「みずたにです。みなさんとの交流の機会をいただけたこと、大変うれしく思っております。どうぞよろしくお願いいたしますっ!」  5限目のホームルーム。  きらきらとした視覚効果が見えるほどの営業スマイルで、教壇に立ったセラが深々と辞儀をする。  視聴覚室では気にならなかったというか、勢いと流れで気にする機会もなかったのだが、アシスタントである彼女は、深緑色の上着に身を包んでいた。自分で選べるズボンの丈については、訓練校の制服同様、短パンに黒タイツという装いを選択したようだ。  守護騎士ガーディアンではないためけんは携えていないが、いざというときのストックとして、リュートのカートリッジをベルトに引っかけている。ベルトには他にもブザー等の装備があり、また肩口にはアシスタント常備の簡易無線機もあるため、物々しさでいえばリュートと大差はない。  しかしそんな物騒な格好でも、たとえわざとらしくとも、セラの笑顔は教室内に明るさと華やかさをもたらしていた。少なくともリュートよりは早く、クラスメートと打ち解けるだろう。  愛想のいいセラに、隣に立つ飯島もほっとした様子で、 「みんなも仲良くしてやってくれよ。水谷は天城のアシスタントだ……で、よかったよな?」 「はい、リュート様の専属アシスタントです!」  笑顔を絶やさぬセラの返事に――教室中がざわめいた。  リュートが挨拶した時も似たようなものだったが、明らかに違う点がふたつある。  ひとつはリュートが生徒側に回っていること。  もうひとつは、 「……リュートだって」 「守護騎士ガーディアンとアシスタントって、そういう上下関係だっけ?」 「違うでしょ。いつか見たアシスタントは普通に呼んでたもん」 「付き合ってるとか?」 「……呼ばせてたりして?」  教室内の空気が冷めていくのに反比例して、リュートの顔は急速に火照っていった。無遠慮な視線からそれを隠すため、なんでもないふうを装って顔を伏せる。  気づいているのかいないのか、セラはすべらかな口調で言葉を紡いでいく。 「私の役目はリュート様のサポートですが、みなさんとも積極的に交流をもちたいと思っていますので、どうか気軽に接してくださいね。もちろん学校の方もリュート様とふたり、全力でまもっていきますのでご安心ください」 「っ……」  セラがリュート様と言うたびに、小声の臆測が飛び交う。ざわっ。 (セラのやつ……速攻で約束破りやがって……っ!)  リュートは、爪で威嚇する獣のように指を引きつらせた。  そのまま机の表面に爪を立て、割れんばかりに押しつける。耐えるように目をつぶり、動じたら負けだと自分に言い聞かせる。 (我慢だ、我慢だ……) 「水谷の席は、廊下側の4番目だな」 「先生、いきなり反抗するようで恐縮なのですが、仕事の都合上リュート様のすぐそばの方が――」  ――ざわわっ。 「水谷っ! 至急内密に報告したいことが盛りだくさんなんだが、ちょっと来てくれすぐ来てくれっ!」  バンッと机をたたいた反動で立ち上がり、リュートは声を張り上げた。椅子の脚にぶつかったけんが音を立てる。  セラは教壇から、純度120パーセントの笑顔を返してきた。 「了解ですリュート様! という訳で先生。申し訳ございませんが、少しの間、失礼させていただきますっ」 ◇ ◇ ◇
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