愚神と愚僕の再生譚
2.至極まっとうで謙虚確実な報酬の取得手段すなわち有償奉仕⑤ なにを信仰しようと自由だろ。
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「リュート様には先ほどお話ししましたけど、タカヤさんは立派な志をもった模範生なんですよ」 「そんな、模範生だなんて」  セラの張りぼての笑顔に気づかず、まんざらでもない顔をするタカヤ。  なんだか気の毒に思いながら彼を見ていると、こちらの含みには気づいたらしいタカヤが、じっと見返してきた。 「気に食わないですか? 俺の信仰姿勢が」 「別に。誰がどれだけなにを信仰しようと自由だろ。強制するなんて馬鹿げてる」 「俺が信心深いのはっ」  感情のままに吐き出しかけ、タカヤが慌てて口をつぐむ。地球人への秘匿事項である、女神についてれかけでもしたのだろう。  実は明美に女神が同化しており、かつ明美もそれを自覚していることを、逆に秘匿されているとはつゆほどにも思うまい。  タカヤは明美を気にするようにちら見すると、リュートに向かって続きを叫んだ。 「それがわたりびととして当然るべき姿だからです!」 「だから、そう思ってるならそれを貫けばいい。俺には関係ない」  タカヤの熱を興味なく受け流し、アスレチックに向けて歩きだすと。  セラと明美が続くよりも早く、タカヤがすざざっと、リュートの前へと滑り出た。 「リュート先輩、勝負してください!」 「……は?」  突然の申し出に戸惑うリュート。  タカヤはその機を逃さず畳みかけてきた。 「セラ先輩から聞きました。リュート先輩は内に秘めた信仰心を隠すため、仕方なくそういう態度を取っているのだと……ですが!」  グッと拳を握り、瞳に信念の炎をともす。 「俺にはどうしても見過ごすことができないんです! だから俺と勝負して、俺が勝ったらその不遜な信仰態度、改めてください!」  リュートは疲れたまなざしでセラを見据えた。 「お前さあ……」 「リュート様をフォローしようと思って」  セラが人さし指を顎に当て、うふふと横へ目をそらす。  タカヤは続ける。 「あとこれは後輩としての進言ですが、寮室の壁に延々と語りかけるのはやめた方がいいと思います!」  リュートはセラを振り返った。 「お前さあ!」 「フォローしようと思って」 「明確に潰しにきてんだろ」  ぶつくさと文句を言うと、リュートは仕方なくタカヤに向き直った。 「俺が君と勝負する理由がないだろ。今は他事で手一杯なんだよ、悪いけど」 「いいんですか?」  聞いてくるタカヤは、確信の笑みを浮かべていた。  だから代わりにという訳ではないが、リュートは疑念の表情を浮かべた。 「なにがだ?」 「俺はこの時間帯の、特1利用申請をしています。ご存じですよね? 整備担当の仕事が疎漏であったと、申請台帳に残せばどうなるか」  それはすなわち、報酬が支払われない恐れがあるということだ。  リュートは、すっと目を細めた。 「つまりは俺の稼ぎの邪魔をするのか?」 「そんな眼光鋭くするほどの額でもないですけどね」 「天城君……よければ貸そうか? お金」 「金持ちは黙っててくれないか」  話の腰を折るセラと明美に、目を閉じてそう告げると。  リュートは決断して目をけた。 「いいぜ、勝負しよう。その代わり、俺が勝ったら奉仕活動手伝えよな。勝負の分だけ作業時間が圧迫されるんだから」  タカヤが、にっと笑みを浮かべる。 「当然です」  こうして知り合って間もない後輩と、益体もない勝負をすることが決まった。 ◇ ◇ ◇
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