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※ ※  ファランヴェールが第二世代のバイオロイドではなく、全てのバイオロイドの祖である『第一世代』のうちの一体だった――  ファランヴェールの告白に、しかしフユはきょとんとした顔を見せた。 「えっと、えっとね、ファル」 「はい」 「それって、すごいの?」  フユの問いかけに、今度はファランヴェールが戸惑う番となった。 「すごいかどうかというのは、個人の主観であって、そう尋ねられると、私には」  なんとも歯切れの悪い答えにフユは少し微笑んで、ファランヴェールの頬に手を伸ばした。 「いろんな疑問のいくつか解けた。だからファルはいろいろ知ってるんだね。でもね」  ファランヴェールの頬に手を当てる。人間よりも少しひんやりした肌の温度、そして質感、それらは第三世代のバイオロイド――ヘイゼルのものと変わらない。 「ファルが何者であろうと、ファルはファルだよ」 「マスター……」  ファランヴェールが少し潤んだ目をフユへと向ける。 「フユから離れろよ」  と、そこにヘイゼルの声が飛んだ。投げ飛ばされたが、幸いどこか怪我をしたということはないようだ。こぶしを握り締め、敵意を隠さない視線をファランヴェールへと向けている。 「すまなかった。君が急に飛び掛かってきたから」  ファランヴェールの弁明に、フユも咎めの視線をヘイゼルに向ける。 「そうだよ、ヘイゼル。もう少し考えて行動しないと」 「違う!」  フユの言葉をヘイゼルが鋭い声で遮った。 「そいつは、フユを危険な目にあわそうとしている。そうしても平然としている。まだ何かを隠してるんだ」 「何を?」 「……そこまでは、わからない」  フユは一瞬、やれやれといった表情を見せたが、ふと考え、ファランヴェールへと視線を向ける。 「ねえファル。きっとヘイゼルの言う通り、ファルはまだ何かを隠してるんだと思う。でも、それを今聞こうとは思わない。さあ、案内して。まだかかる?」 「フユ!」  なおも抗議を続けるヘイゼルのもとに、フユが走り寄る。そしてその腕に手を回す。 「痛いところは無い?」 「……大丈夫」  きっとこれ以上抗議したところで、フユは変わらない――フユの頑固さをヘイゼルも理解している。ぷいと横を向き不満を表してみたが、もうそれ以上のことをするつもりはなくなったようだ。 「この先、行き止まりになってる」  ヘイゼルの言葉に、フユはファランヴェールを見た。ファランヴェールが頷く。 「行きましょう」  体を寄せ合うように立つ二人を少し寂しげな表情で見ながら、ファランヴェールは二人を追い越し、階段の先へと降りていく。  ついていった先、程なくして、ヘイゼルの言う通り、階段が終わり、そして行き止まりになっていた。  ファランヴェールが円形の壁に手を当てる。壁は音もなく左右へとスライドした。その先は真っ暗闇だったが、ファランヴェールが一歩中へ入ると、壁全体が発光し始めた。人の背の高さほどのトンネルがまっすぐ続いている。 「ここは宇宙船の非常脱出口でした。階段や通路がトンネル状になっているのは、どの方向に重力が掛っても歩けるようにという理由です」 「この先に、何があるの?」  ファランヴェールが言うにはここは第三層であり、封鎖されている第四層はまだ下のはずである。 「宇宙船の中央コントロール室だった場所です。浄水プラント中央の真下になります」  そう答えると、ファランヴェールはまた先を歩き始めた。
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