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「ボクも行く!」  ヘイゼルと、そして直ぐ後に合流したファランヴェールを連れて部屋に戻ったフユが、明日から二日間外出をすることを二人に伝えるとすぐに、リビングにヘイゼルの声が響き渡った。 「もちろん、一緒に連れて行くよ」  しかしフユのその返事はヘイゼルには予期せぬものだったようだ。 「え、いいの?」  ヘイゼルが、喜ぶよりも先に呆気にとられている。 「最初からそうするつもりだったからね。もう外泊申請も出してる。ファルも、一緒に行ってくれるよね」 「はい、マスター」  キッチンに立っていたファランヴェールが、微笑みながらそう答えた。途端に、ヘイゼルがまた不機嫌になる。 「なんでアイツも一緒なの! せっかく久しぶりの外出なのに」 「遊びに行くわけじゃないから。ヘイゼルもファルも、僕の護衛として一緒に行くんだよ」 「護衛?」 「どこに行くのですか」  ヘイゼルは訝しげに、ファランヴェールは心配そうな顔でそう聞いた。  シティに行くのならもちろん、ファランヴェールはフユの護衛のために同行するつもりであり、フユもそれを承知しているだろう。  しかしヘイゼルが嫌がるので、ファランヴェールは二人から離れてついていくつもりだった。  それをフユは、最初から三人で行くと言う。 「カグヤ・コートライトに会いたいんだ。でも、ファルも彼女の居場所は知らないよね」 「ええ、そうですね。すみません」  フユは一応聞くだけ聞いてみた感覚だったので、ファランヴェールのその答えにもがっかりした様子はない。ファランヴェールはイザヨ・クレアと顔見知りだったようなので、少しだけは期待していたのだが。 「ボクには聞かないの?」  ヘイゼルが不服そうに抗議する。 「ヘイゼル、知ってるの?」 「知らない」  ヘイゼルが真顔で答える。しかしフユは、『でしょ』とは言わなかった。 「なら、クレア博士に聞くしかないかなって。知り合いみたいだし」 「あの女に会いに行くの? 危ないよ。フユにかなり負の感情を抱いてる」  ヘイゼルは何かを感じ取ったのだろう。しかしヘイゼルは、カグヤ・コートライトにもいきなり殴りかかっている。  ヘイゼルを信じているとはいえ、フユには、ヘイゼルがフユに近づくもの――特に女性に対してなのだが――手当たり次第に敵意を向けているように見えなくもなかった。 「だからね、護衛をお願いするんだよ。でも、何かするつもりなら、あの時もうされてると思うけどね」  フユには、イザヨ・クレアから何かしらの敵意を向けられる覚えはない。だから、きっとクレアと父との関係が影響しているのだろうと思っている。 「ファルはどう思う?」 「大丈夫でしょう。ただ、クレア博士がどこにいるかは、分かっているのですか」 「分からない。前に会った場所に行ってみて、会えなければもうそれで終わりにするよ」  フユは、その後はカルディナのお姉さんに会いに行く予定であることを二人に伝えたのだが、それを聞いてさらに不機嫌になったヘイゼルは、散々駄々をこねた挙句、フユと二人きりで寝るという権利を勝ち取り、ようやく機嫌を直したのだった。
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