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 バイオロイド用の懲罰房は、バイオロイド管理棟の中にある。房の中にいる七日間、ただひたすら知識系と運動系の両方の課題をこなし、メンテナンスを受けるという生活を送らされたヘイゼルは、管理棟を出るや否や大きく伸びをした。 「おつかれさま」  外で待っていたフユがヘイゼルに声を掛ける。ヘイゼルは驚きもせず、フユの許へ駆け寄り、抱き着いた。 「フユ、会いたかった! あんな生活、三か月も送ったら体が腐っちゃいそう」  実際のところ、懲罰房にいたとしても、教官以外誰とも会うことができないということと自由がないということ以外、何かあるわけではない。  ヘイゼルが今着ているセーラ―タイプのスクールウェアも、きっちりとクリーニングされていて、身だしなみも整えられている。 「じゃあ、もう懲罰を受けるような違反はしないようにしないとね」  ただ、今のヘイゼルにはフユに会えない一秒が無限の苦痛に思えるようだ。それはつまり、フユ一人で行動するとヘイゼルがまた何かをしでかす可能性があるということで、フユは少し頭が痛い。 「しないよ。フユがいてくれたら」  そう答え、ヘイゼルはまたフユの首にしがみつく。灰色の長い髪が、フユの頬に触れこそばゆい。  ヘイゼルは、必要以上にフユにくっついていたがっているようだった。それは他のバイオロイドには見られない行動だ。下手をすれば禁則――人間とバイオロイドの『性的接触』の禁止――に触れるような行為に見られかねず、ヘイゼルが公然とそのようにふるまうのを、フユはいつもはらはらした気持ちで見ている。 「さあ、実技試験の打ち合わせをしよう」  ゆっくりとヘイゼルの体を自分から離れさせる。ヘイゼルが少し不満げな表情を作った。  入室・宿泊許可申請はもうしてあった。この日は休日であるが、他の生徒も実技試験に向けてペアのバイオロイドと打ち合わせを行っていることだろう。 「はーい。って、フユ、どうしたの?」  ふと、ヘイゼルが声を落としてそう訊いてくる。ヘイゼルには、フユに少し元気がないように見えたようだ。  フユは少し考えた後、「テストがね」と言って少し顔をしかめた。  一学年十二人という少数制の為、学科試験の結果はすぐに出てくる。今朝発表されたものを見て、フユは驚かずにはいられなかった。  一位はカルディナだった。そしてフユは二位。やはり勉強時間が制限された結果だろう、カルディナには後れを取ってしまったが、それはある程度想定内のことである。  驚いたのは、フユと僅差の三位にクールーンがいたことだった。しかし決してフユの成績が悪かったわけではない。入学試験や平常時のクールーンの成績は平均やや下くらいだっただけに、クールーンが頑張ったのだろう。  その結果に驚いたのはフユだけではない。一年生の間ではすでにそのことも大きな話題になっていた。  実技試験では、エンゲージとペアを組んでいるクールーンの方がフユよりも圧倒的に有利だと皆が思っている。そしてそれは紛れもない事実である。 『リオンディのやつ、いきなり特待生から転落か?』  学内ネットワークではそんな言葉が飛び交っていた。 「カルディナがね、実技試験で皆が僕を狙ってくるから気をつけろって」  点差から言って、実技試験の成績でクールーンがフユを上回れば、フユが総合成績で三位に転落することもありえる。そして、フユは特待生の資格を失ってしまうのだ。  そうなった場合、特待生資格試験が行われることになり、フユ以外の生徒にも特待生になるチャンスが生まれる。 「へえ。まあ、大丈夫だよ。ボクがフユを守ってあげるから」  そう言って笑うヘイゼルの表情は、純真無垢そのものである。 (ヘイゼルの行動が一番の問題なんだけどな)  フユはそう思ったものの、口には出さず、代わりに「ありがとう」と微笑み返す。そのまま二人で、フユのコンドミニアムへと向かった。
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