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 バイオロイドは基本的に、活動の為の代謝は行うが成長のための代謝は行わない。それが、人間とは決定的に異なる点である。  この星、ネオアースにいるバイオロイドのうち、エイダーとなるべく作られたバイオロイドは皆、男性型女性型を問わず、子供のような姿形をしている。そして成長はしない。  少年少女の姿で生まれ、少年少女の姿のまま活動する。それは、体が小さい方が活動に有利であること、そして要救助者に対して警戒心を抱かせないことが主な理由であった。  ただし、活動すれば人間と同じく損傷を受ける。自己治癒能力のないバイオロイドたちは、それをメンテナンスカプセルの中で癒すのだ。   (ヘイゼルはちゃんとメンテナンスを受けているだろうか)  フユは、情報端末から目を離し、一つため息をついた。すでに食堂で食事を済ませ、コンドミニアムに戻ってきている。  夜になって降り出した雨が、部屋の外壁に当たり、パラパラという音を響かせている。音楽を流す気分にはなれず、フユはそれをBGMにしていた。  リビングで共同訓練の資料を作っているのだが、今日の訓練のデータを確認すればするほど、訓練時には気づかなかった様々な不思議が見えてきた。  ヘイゼルとエンゲージのことはもちろんなのだが、例えば、エンゲージを指揮していたクールーンの動きもフユには奇妙に思えた。クールーンは訓練の間中、動き回っていたのだ。動けば見つかる可能性が高いため、余り動かずにいるのがセオリーなのだが、クールーンは活動中の複数のバイオロイドの間隙を縫うように的確に移動している。まるでバイオロイドの動きが見えているようだった。  もう一つ。エンゲージの異常とも言える成績に隠れがちであるが、コフィンの訓練結果も驚愕に値する。コフィンは、動きとしてはゆっくりだが、生徒を発見する際には無駄のない動きを見せていた。 (これは、本当にうかうかしてられないな)  共同訓練だけで成績が決まるわけではないが、カルディナの言う通り、クールーンがエンゲージとペアを組めば、総合成績でも上位に来るだろう。特に実技が増えてくる今後は、気を抜けばフユが二位以内から転落する危険性もありそうだった。  ただ、共同訓練の内容は様々であり、今日行ったような『かくれんぼ』だけではない。バイオロイドにもいくつかのタイプがあり、それぞれのタイプには活動によって得意不得意がある。  エンゲージのようなクエル・タイプは、赤色系統の髪の毛をしているのが特徴で、運動能力に優れるが持久性や巧緻性は他のタイプより劣っている。  青色系統の髪の毛を持つレス・タイプは持久性と感知能力が、緑色系統の髪の毛を持つセル・タイプは巧緻性、つまり手先の器用さと協調性に優れている。 (でも、エンゲージは感知能力も高いのか)  いくら五キロメートル四方の、バイオロイドにとっては広いとは言えないフィールドでの訓練とはいえ、エンゲージの発見能力は信じられるレベルを超えている。  高名なDNAデザイナーがバイオロイドを製作すると、これほどの高性能になるのかと、フユの口から感嘆の声が漏れた。  そこで、エンゲージと同じ製作者、同じタイプであるラウレのことを思い出す。  これまでの成績だけ見れば、エンゲージとは雲泥の差である。実際、何人もの生徒がラウレと訓練し、そして二度と彼にペアを申し込んでいないところを見ると、共同訓練でもさほどの結果は残せていないのだろう。  ただ、一度見た訓練の様子から考えると、ラウレは決して運動性能が劣るわけではなさそうである。成績低迷の原因は、訓練を途中でやめてしまうというラウレの『悪癖』にあるようにフユには思えた。  確かに、どれだけ精密にDNAを設計しても、バイオロイドがその通りの性能になるかは、誕生させてみなければ分からない。一般的な評価としては、ラウレは『失敗作』である。 (そういえば、ヘイゼルは)  ふと思い出し、フユは端末にバイオロイドに関する情報を表示させる。ヘイゼルの名は、『フォーワル・ティア・ヘイゼル』であるが、ティア・タイプというのは『類型不確定』、つまり『どのタイプなの確定出来ないバイオロイド』である。一体どんなDNAの悪戯なのか、時々そのようなバイオロイドができてしまうらしい。 (原因は今だ不明、か)  ここまで科学が進んでいても、解明できない現象は無数にある。きっと、ヘイゼルの『わがまま』な性格もDNAのいたずらによってそうなってしまったのだろう。 (父さんも、思い通りにいかないことに苦労してたのだろうか)  フユは、父親の研究について詳しくは知らない。父親はフユに多くを語ることはなかったし、家にも研究資料を残してはいなかった。 「荷物取りに行かなきゃな」  まだ、生活に必要なものを全てこの部屋に運び入れたわけではない。フユは明日の休みを、今は政府の管理下に置かれている実家へ荷物を取りに行くことに充てることに決めた。

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