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「ヘイゼル、あのね、訓練を」 「じゃあ、ボクを『抱いて』よ。そしたら訓練する」 「だから、ファルがいるから」 「別にいいよ。主席様だって『同類』でしょ。キスの時みたいに、見ててもらおうよ」 「だから、だめだって」  ヘイゼルは『暴走』をやめようとしない。二人きりの時はそれなりにフユのいうことに従うのだが、やはりファランヴェールがいることがヘイゼルを刺激しているのだろう。 「私は構いませんよ、マスター」  突然ヘイゼルの後ろから声がかかる。ファランヴェールが階段を降りたところで、静かな面持ちでヘイゼルに覆いかぶさられているフユを見つめていた。  パーソナルウェアであるゆったりとしたローブから出ている手と足、首は、いつもよりも青みが目立つように透き通っていた。  バイオロイドの体内に流れる『血液』は人間のものよりも青みが強い。平静を装っているように見えて、ファランヴェールが何かしらの『興奮』を覚えているのはフユにも分かったが、それがどういうものなのかは図りかねた。  ヘイゼルへの怒りか、嫉妬か、それとも―― 「ほら、主席様も良いって言ってる」  ヘイゼルは、フユにそのような思考をする時間を与えてはくれなかった。足でがっしりとフユの腰をはさむと、フユと自分の態勢を入れ替える。 「ちょ、ファルまでそんなことを」 「ほら、フユ、遊ぼ」  ヘイゼルもパーソナルウェアを着ている。それは黒いワンピースドレスであり、ヘイゼルの肌は以前の白とは違って今はグレーであるが、黒を背景に素肌を見ると、青白い鮮やかが映えている。  ふとフユは、この服の色はヘイゼルの『将来』――肌の色がグレーへと変わることが分かっていて仕立てられたものではないかという思いに駆られた。  そのスカートの裾がめくれ、陶器のような艶やかな足が露わになる。 「あのね、こういうことはいけないことで」 「今更?」  ヘイゼルがその顔に妖しい笑みを浮かべる。しかし、フユが来ていたトレーナーに手をかけたところで、その表情が一変した。フユの肩の向こう側、後方をにらんでいる。 「何?」  その言葉に、フユが後ろを見ると、すぐそばにファランヴェールがいた。 「ファル、ちょっと助けてくれないかな」  フユがそう言いながら苦笑いを見せる。その体を、ファランヴェールがそっと抱きしめた。 「フユに触らないで。主席様は見てればいいんだけど」  ヘイゼルがすぐに抗議の声を上げる。 「見ているとは言ったが、何もしないとは言ってない」  ファランヴェールはヘイゼルにそう言うと、フユの唇に自分の唇を寄せた。 「ファ、ファルまで。ちょっと、だから、あのさ」 「ちょっと、何でしょうか」 「やめろってば!」  さほど広くはない寝室で、一人と二体が絡み合い、声を上げる。  と、その時、フユのデスクの上に合った情報端末が、電子音を響かせた。 「ほら、なんか来た。二人とも落ち着いて」  まだやりあっている二体を何とかすり抜け、フユは情報端末のディスプレイを見た。そこでフユの動きが止まる。 「どうしました、マスター」  ファランヴェールの声に、フユがゆっくりと振り向いた。 「呼び出し。明日、授業が終わった後でバイオロイド管理部に来いって」 「誰が?」  ヘイゼルがそう聞きながらも、ファランヴェールに拳を繰り出す。ファランヴェールはそれを軽くいなした。 「ゲルテ・ウォーレス管理部長」 「部長が、ですか」  フユとファランヴェールが同時に顔を曇らせる。それをヘイゼルが、訝しげに見ていた。
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