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 トレーニングルームが再び、フユとファランヴェール、トレーナー、そしてバイオロイド三体のいる空間へと戻る。 「フユ、明日の共同訓練、君も気に入った相手がいたのなら申し込むといい」  ファランヴェールの声が、フユの耳を震わせた。聴覚が回復して以来、フユが聞いた声の中で最も優しさと慈しみに満ちたものだったかもしれない。ファランヴェールがフユに、穏やかな微笑みを向けている。  だから、だろうか。フユはどうするか迷ってしまった。  共同訓練は週に二度行われているが、参加は自由である。つまり、参加しないことも可能だ。しかし、データには表れないバイオロイドの性能や、自分との相性といったものを図るには、実際に一緒に動いてみるのが一番である。また、バイオロイドとの信頼関係を構築するのにも共同訓練は重要である。だから、よほどの理由がない限り、生徒のほとんどは参加するのである。  カルディナが共同訓練を申し込んだバイオロイドは、名前をマクスバート・レス・コフィン。フユの記憶によれば、レス・タイプは持久性に優れ、行方不明者の捜索を得意とするバイオロイドだった。 「明日の共同訓練は、野外捜索活動でしたか?」 「ああ、そうだ」  訓練の項目はあらかじめ開示されている。カルディナという生徒は訓練項目に合わせてバイオロイドを選んだ、ということだろうか。  フユは、コフィンというバイオロイドをもう一度見たが、彼はもうフユには興味を示していないようで、あらぬ方向を向いている。フユはその代わりにヘイゼルと目が合ってしまった。  さっきまでコフィンを睨んでいたヘイゼルも、もうコフィンには興味を示していない。ヘイゼルにとってコフィンは、『排除すべき邪魔者』ではなくなったということなのだろう。ヘイゼルはじっとフユを見つめている。その目は明らかに、『当然ボクを指名するよね』と訴えかけていた。 「でも、結局担当となるのは、一年目では一人のバイオロイド、ですよね」  ヘイゼルの視線をかわすように、フユはファランヴェールに質問を投げかける。「なんでっ」という小さいが甲高い、そして苛立ちに満ちた呟きがヘイゼルの口から漏れた。が、フユはそれも無視し、他のバイオロイド――レイリスとラウレへと視線を向ける。  緑髪のレイリスは、視線を上に向け何事かつぶやいていた。赤毛のラウレは腕を組みながら、冷ややかにフユを見ている。二体ともフユとヘイゼルが『顔見知り』であることを知って、もうフユへの興味を失っているようだ。 「その通り。二年生に上がってから担当するもう一体を決めることになる」  ヘイゼルを一睨みした後、ファランヴェールはフユの質問に答えた。 「ちなみに、共同訓練の申込期限とかはあるのですか」  そのフユの質問に、ファランヴェールは少し不思議な表情を見せる。なぜ、そのようなことを今尋ねるのか。そんな風である。 「訓練開始時刻の一時間前からブリーフィングが始まる。それまでが申込期限だ。明日なら、一四〇〇だが」 「分かりました。では、少し考えさせてください」  フユの答えに、バイオロイドそれぞれがそれぞれの表情を見せる。ファランヴェールは少し戸惑うように、レイリスは目を輝かせながら、ラウレは興味深げに。そしてヘイゼルは悪夢を見ているかのように。 「分かった。何か他に手伝うことはあるかな」 「いえ、とても参考になりました」  フユの見学はそこで終了となった。フユとファランヴェールがトレーニングルームから出て行く。トレーナーがバイオロイド達に集合するよう呼び掛けるが、ヘイゼルだけはそれを無視し、フユが消えた扉の方を怒りとも憎しみともつかぬ目でいつまでもにらみ続けていた。

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