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 共同訓練が終了すると、生徒とバイオロイドは着替えを済ませた後、ブリーフィングルームに戻り、『反省会』を行った。それを基に資料を作成し、各自、今後に活かすというのが目的である。  しかし、フユはその反省会でも頭を抱えることになった。ヘイゼルに何を尋ねても、返ってくるのは「フユが心配だったから」という言葉ばかりで、反省会にならなかったからだ。  次の共同訓練は、休日を挟んでの三日後にある。時期的に、コンダクター候補生がバイオロイドを指名する『選抜会』が近づいているので、もう随分と『暗黙のペア』ができてきているようだ。  だからだろう、この日にペアを組んだバイオロイドを次の共同訓練のパートナーとして、この場で登録する生徒がほとんどだった。  一方、フユたちはというと、早々に話が尽きてしまって、何となく気まずい空気の中にいた。いや、気まずく思っているのはフユだけであり、ヘイゼルは期待と確信という名の宝石がちりばめられたような瞳をヘイゼルへと向け続けている。訓練中のしおらしさが嘘のようだ。 「ねえ、ヘイゼル。三セット目、なぜ僕の居場所が分かったんだい」  フユが、モニターを見ながらヘイゼルに声を掛ける。生徒とバイオロイドにつけられていた記録装置のデータの解析結果をそれで見ることができるのだ。  そこからわかったのはは、あからさまにではないものの、やはりエンゲージはヘイゼルを追いかけ、フユを発見したということ。そして、ヘイゼルは三セット目すら、嘘の居場所を伝えていたはずなのに、生徒一人を発見してすぐ最短距離でフユの許へと向かったということだった。  ヘイゼルには、フユの居場所が分かるのだ。 「なぜって、だって、フユの声が聞こえたから」  ヘイゼルは、何を当たり前のことをとでも言いたげな様子でそう答える。そこでフユはまた、右手でこめかみを押さえた。  バイオロイドが『聴く』ことのできるものは、音波と、可視光線よりも小さな周波数の電磁波である。  しかしフユは声を出してはいなかったし、低周波通信もしていなかった。 「僕は声も信号も出してないよ」 「でも、聞こえたよ」  一体ヘイゼルは何を聞いたのか……色々訊いてはみたものの、ヘイゼル自身にも分からないようだ。  そもそも、一人目を発見するスピードも早すぎると言っていいくらいに早い。一セット目こそエンゲージに先を越されてしまったが、それ以降の二回はヘイゼルが第一発見者になっている。  しかしその理由も、ヘイゼルは「何となく」とだけしか答えられずにいた。フユが見る限り、嘘は言っていないようだ。 「分かった。じゃあ、今日はこれでお終いにしよう」  周りの生徒はまだ反省会の最中であったが、フユはそう言って椅子から立ち上がった。ヘイゼルが慌てた様子を見せる。 「ね、ねえ、次の訓練の登録は」  座ったまま、ヘイゼルはフユの腕を手でつかむ。しかしフユはその手をすぐに振り払った。 「ちょっと、考えさせて」 「ど、どうして。ねえ、フユ」  まるで世界が終わってしまいそうな、そんな表情でヘイゼルがフユを見つめている。  フユは作ったような笑みを返しただけで、ヘイゼルが更に何か言おうとするのを振り切って、ブースからさっさと出て行ってしまった。 「待って、フユ」  ヘイゼルが慌てて追いかける。突然フユが足を止め、ヘイゼルの方へと振り向いた。  「メンテナンス、行っておいで」  相変わらずフユの顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。しかしその言葉は笑っていない。  ヘイゼルは二の句を継ぐことができず、ブリーフィングルームから出て行くフユの後姿をただ見つめるしかなかった。

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