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 コフィンは共同訓練にスクールウェア着てきている。これはペアを組む生徒ではなく、バイオロイドが自ら選ぶのだ。  カルディナはコフィンのパーソナルウェアを見たかったのだが、残念ながらコフィンはそれを着てこなかった。  バイオロイドが共同訓練にパーソナルウェアを着てくるというのは、いわば『担当に指名してくれれば、二つ返事でイエスです』という意思の表れである。  カルディナはコフィンと共同訓練でペアを組むのは初めてであり、まだ信頼関係もほとんど築けていないのだから、コフィンがパーソナルウェアを着てこなかったのは当然のことといえる。  そもそも普通、バイオロイドはそうすぐには意思表示してこない。バイオロイドにとって、誰が自分を指揮するのかは『人生』を決めることであり、『意思表示』はバイオロイドに与えられている数少ない権利の一つなのだ。その行使に慎重になるのは、もっともなことだろう。ヘイゼルやエンゲージが異常なのだ。  それにしても、エンゲージがいきなりパーソナルウェアを着てきたのには、さすがにカルディナも驚いた。クールーンは全くもって幸運な奴と言えるのだが、カルディナにとっては羨ましいやら驚きやらの話だけでは済まない問題だ。  今後、実技が増えていく。特待生二人とそれ以外とでは、普通、成績にかなりの差があるのだが、クールーンがエンゲージをパートナーにするのなら、余裕ぶっている暇は無い。  何とか二位以内を確保するためにも、ちゃんと性能のことも考えてバイオロイドを選ぶ必要がありそうなのだが。 (そういうのは俺の矜持に反するんだよな)  それでは余りにもつまらな過ぎる。カルディナにとって、ギャップこそ至高、これは譲れないのだ。  再びコフィンに似合う服装を考えてみる。実際に着せてみることができれば話が早いのだが、周囲の目を考えると、それは無理というものである。関係が深まれば、『作戦会議』という名のもと、二人きりで会うことが可能になるのだが、そこまでいってしまうとパートナーの変更は難しくなる。それに選考会までもう日数も少なくなっている。  これまで見てきたバイオロイドの中に、カルディナのお眼鏡にかなうものはほとんどいなかった。 「んー」  いっそ、パステルカラーのワンピースとか…… 「あの」  突然、コフィンがカルディナに声を掛ける。 「なに」  カルディナは、『脳内試着室』でコフィンの身体に様々な服装をあてがっていたのだが、その試行を中断され、ちょっと不機嫌になった。  しかしコフィンの目を見て、少し驚く。カルディナの目を真っすぐに見つめているのだ。焦点があっている。 「あ、ああ、どうした」 「何か悩みでもあるのですか」  ぼーっとしていると思っていたコフィンにいきなり図星を突かれてしまい、カルディナは苦笑した。  コフィンは『レス・タイプ』であり、他のタイプよりも持久性が高く、機敏性もそれなりにあることから、捜索活動に向いている。一方、人間のフィジカルケア・メンタルケアに関しては、巧緻性や協調性の高い『セル・タイプ』ほど得意ではない。  そのコフィンにも指摘されるくらいなのだから、顔に出てしまっていたのだろう。カルディナは自分のうかつさを自嘲する。  どんな時にもポーカーフェイス。誰にも、カルディナの『ヒメゴト』を知られてはいけないのだ。 「そんなに悩んでいるような顔をしていたか」 「いえ、オーラが乱れていましたので」  コフィンの答えに、カルディナは少し顔をしかめた。コフィンはどうも本気で言っているようだ。 「大したことじゃない」  とりあえずそう言って、笑って見せる。とは言っても、内心かなり不安だった。 (ほんとに大丈夫か、こいつ)  それも含めての、今日の訓練である。結果を見るしかない。 (コフィンがだめだったら、さて誰にするか)  カルディナは一つ、深いため息をついた。  と、上空に眩い光が現れる。遅れて破裂音が聞こえた。 「よし、始めるぞ、コフィン。指示通りに動け」  カルディナが、外していたゴーグルとインカムを着け直す。コフィンは心ここにあらずといった様子で「コピー」と返した。
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